「ロボットタクシー普及後の世界」の答え合わせ
2年半前に、こんなブログを書いた。
ロボットタクシーで地価激変〜駅近暴落、駅遠人気の未来〜:成迫剛志の『ICT幸福論』:オルタナティブ・ブログ
スマホかアレクサで呼ぶと、24時間365日、いつでもどこでも15分以内にロボタクシーが迎えに来る。運賃は2kmで200円くらいまで下がる。そうなれば「駅近」という考え方が変わり、不動産価格も小売店の立地も大きく変わる。そんな時代が10年以内に来る、と。
あれから2年。いまどうなっているのかを、英語、中国語、日本語の情報で調べてみた。
「呼べば来る」は、海外ではもう日常になった
まず、ロボタクシーそのものは、海外ではもう未来の話ではなくなった。Waymoは2026年3月、米国10都市で有料の無人運転乗車が週50万回を超えたと発表した。2024年初めは週5万回ほどだったので、2年で約10倍になった計算だ。年末には週100万回を目指している。 [happycapyguide.com]
中国も負けていない。百度の萝卜快跑(Apollo Go)は、2026年5月時点で世界27都市で運行し、累計の注文は2,200万回を超えた。運転席に安全員が乗らない完全無人の走行距離も2.2億kmに達している。 [wenku.baidu.com]
「15分以内に迎えに来る」も、Waymoの待ち時間は約6分で、Uberの3〜5分に近い水準になっている。ただし条件がある。走れるのは決められたエリア(ジオフェンス)の中だけで、乗る場所か降りる場所がエリアの外だと、アプリが配車してくれない。「いつでも」はかなり実現したが、「どこでも」はまだこれからだ。 [deploy.report] [autoedgeview.com]
「2km 200円」は、まだ遠い
一番外れているのが価格だ。米国では、ロボタクシーはまだ安くない。2026年初めの時点で、Waymoの平均運賃は約19.7ドル、Uberは約17.5ドルで、Waymoのほうが13%ほど高い。2025年半ばには30〜40%高かったので差は縮んでいるが、逆転はしていない。Teslaは1マイル0.20ドルという目標を掲げているが、これは将来の話で、いまの試験運行の運賃ではない。 [nextgenauto.us] [getridewise.com]
中国はどうか。萝卜快跑の乗客が実際に払っている運賃は、1kmあたり1.8〜2.8元ほどだという分析がある。日本円にすると40〜60円程度で、ぼくの「2km 200円」にかなり近い。ただし、取扱高の約70%が補助金だという指摘もあり、補助金をやめれば運賃は大きく上がる可能性がある。 [post.smzdm.com]
「人件費がなくなるから安くなる」は、半分正しかった
ぼくは、タクシーの原価の大きな部分が運転手さんの人件費なので、それがなくなれば劇的に安くなる、と考えた。この理屈の大筋は合っている。ライドシェアでは、運転手への支払いが運賃の60〜75%を占めるとされる。 [deploy.report]
ところが、運転手がいなくなっても人の仕事はなくならなかった。遠隔での監視と支援、車両基地での運用、清掃、充電がある。高価な車両とセンサーの償却費もかかる。中国の試算では、これらを全部含めると1台あたり1日300〜400元のコストがかかるという。 [codeoxi.com] [post.smzdm.com]
中国の別の分析は、ここをうまく整理している。無人タクシーが有人タクシーより安くなるには、運転手がいないことだけでは足りない。車両価格を下げること、遠隔監視1人あたりの担当台数を増やすこと、24時間走らせて稼働率を上げること。この3つが同時に進んで、はじめて1kmあたりのコストで有人タクシーに勝てる、という。2年前のぼくの議論には、この視点が足りなかった。 [xueqiu.com]
日本は「走ってはいるが、まだ乗れない」
では日本はどうか。2026年8月末の時点で、東京にはアプリを開けば誰でも呼べるロボタクシーはまだない。Waymoは日本交通・GOと組み、港・新宿・渋谷・千代田・中央・品川・江東の都心7区を走っている。ただし運転席には乗務員が座り、地図づくりやデータ収集をしている段階だ。Uber・Wayve・日産・日の丸交通の陣営は、2026年後半に東京で試験運行を始めることを目指している。 [ridejob.jp]
国は、2027年度に100か所以上、2030年度に1万台という目標を掲げている。追い風もある。タクシー乗務員は2019年から約6万人減り、平均年齢は60歳前後とされる。需要は戻っているのに、運転する人がいない。日本では、ロボタクシーは「安くするため」より先に「移動を維持するため」に必要とされるのかもしれない。 [ridejob.jp] [biz-journal.jp]
研究者は「影響はゆっくり」と言う
最後に、一番言いたかった不動産の話だ。ここについて、研究者たちはかなり慎重だ。
米国の研究機関Urbanism Nextは、ロサンゼルス郡を対象にした2026年の研究で、自動運転が土地利用に与える影響はすぐには現れず、ゆっくり進むだろうと結論づけている。いま土地利用政策を大きく変える必要はない、とまで言っている。資産運用会社のDWSも、郊外に広がる都市もあればそうでない都市もあり、一時的に衰える場所も出ると見ている。Urban Instituteは、自動運転が車の所有を減らして都市の土地を空けるのか、逆に郊外へのスプロールと渋滞を増やすのかは、自治体の準備しだいだとしている。 [urbanismnext.org] [download.dws.com] [urban.org]
でも、日本の不動産は「一気に」動く
それでも、ぼくは日本では話が違うと思っている。
技術の普及と不動産価格の動きは、スピードが違う。ロボタクシーは都市ごとに少しずつ広がる。でも価格を決めるのは、実際の便利さよりも「みんながどう思っているか」だ。
日本人には「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という気質がある。日本の不動産はその気質がよく表れる市場だ。バブル期の急騰と崩壊がそうだったし、最近の都心マンションの高騰にも「みんなが買うから上がる」という面がある。
しかも日本では、物件を評価する物差しが横並びだ。ポータルサイトの「駅徒歩◯分」、銀行の担保評価、不動産鑑定。どこかで「駅からの距離は、もうそれほど大事じゃない」という見方が広がり、銀行や仲介会社が物差しを変えれば、みんなが一斉に渡り始める。普及率がまだ1割でも、「2〜3割になったら」という期待が先に価格に乗る。ゆっくり広がる技術が、ある日いきなり価格をひっくり返すのだ。
ただし「駅近が全部暴落」ではない
とはいえ、2年前に書いた「駅近物件の価格が暴落する」は言い過ぎだったと思う。
東京の通勤は鉄道でしか回らない。ラッシュ時に大量の人を運ぶ力では、道路は鉄道にかなわない。ロボタクシーが増えれば、かえって道路が渋滞するかもしれない。毎日都心へ通う人にとって、駅近の価値は残る。
大きく変わるのは、地方と郊外だ。もともと車がなければ暮らせない地域に、「運転できない高齢者でも暮らせる」という価値が加わる。駅から遠い戸建てや郊外の住宅地は、見直される可能性がある。
一番影響を受けるのは、駅近そのものより「中途半端な立地」だと思う。たとえば「駅徒歩15分なのに、駅に近いというだけで高い」物件だ。その割高さが、ある日いきなり消える。言い直すなら、**「駅近が暴落する」のではなく、「駅近のプレミアムが一気に縮む」**だ。
答え合わせの結論
2年前の予想を振り返ると、こうなる。
技術は予想どおり、いや予想より速く進んだ。米国と中国では、ロボタクシーはもう生活の一部になりつつある。一方で、価格は人件費だけでは決まらず、車両・遠隔監視・稼働率という地味な運用が勝負どころだとわかった。日本は走り始めたが、一般の人が乗れるのはこれからだ。
そして不動産。技術はゆっくり広がる。でも日本の不動産は、みんなが同時に気づいた瞬間に一気に動く。そのきっかけになるのがロボタクシーだと、ぼくは思っている。
その瞬間が来てから慌てても遅い。ロボタクシーが当たり前になった世界で、ぼくらはどこに住み、どこで買い物をするのか。2年前より材料がそろったいまこそ、本気で議論を始めたい。