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凡人が秀才を逆転するために必要な5つの要素

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ビジネス上の評価は、学業的に秀才であったかどうかだけでは決まらない。今回は、後天的な努力による「逆転のための要素」を考察する。

秀才は「処理能力」が高い

 エンジニアの世界でも、エンジニアではない文系サラリーマンの世界でも、秀才には、それなりの価値がある。秀才をどう定義するかは問題だが、俗世間的には、個人差があるとしても、入学試験の難しい大学の出身者で、学業成績が優秀だった人が秀才と呼ばれる。

 エンジニアの世界では、専門分野の技術上の優劣がより重要な場合が多かろうし、個人差もあるが、傾向として、秀才は仕事の処理能力が高い。

 では、その処理能力の実体は何かと考えてみると、これで全てではないが高校レベルの国語・数学・英語の運用能力であるように思われる。情報を読んで吸収し、論理的に且つ巧みに表現する能力には国語力が必要だ。また、論理的推論やデータの処理には数学力が必要だし、今日のビジネス上の情報の受発信に英語が必要であることは言うまでもない。これらの三科目を、高校レベルで文字通り「完璧」に使いこなす人は、筆者のビジネス経験上殆ど見たことがないが、秀才はこれらの能力が相対的に優れているので、ビジネスの世界でも「あの人は、出来る」と言われる。

 しかし、秀才の誉れ高く業務全般の処理能力が高いからといって、ビジネスの世界で高い成果を上げ、出世するかというと、そう簡単に物事が決まらないのが現実だ。例えば、大手企業の社長を見た場合、彼が同期の中で最も学業的に秀才であった、というケースはむしろ少ない気がする。

 それでは、秀才はどのように逆転されるのか。あるいは、秀才でない者が、仕事の「処理能力」に勝る秀才を逆転するには、どうしたらいいのか。

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 筆者の世間観察から、後天的な努力によって変化が可能な「逆転のための要素」を抜き出すと、以下の5つが目に付いた。「対人能力」、「人脈」、「芸」、「健康」、「経験」である。

(1)対人能力

 多分一番大きな要素は「対人能力」だろう。対人能力の差はビジネスの世界で大変大きな影響力を持っている。先ず、対人能力に優れた人は、他人の「処理能力」を巧みに使えることがある。自分自身が突出した処理能力を持っていなくとも、処理能力に優れた他人を使う広義のマネジメント能力を持っていると、優れた仕事が出来る。

 上司が部下を使うような、狭い意味のマネジメント能力だけでなく、他人に協力を頼んだときに、他人が快くそれを受け入れてくれるような、他人に協力して貰う力が役に立つ。多くの仕事は、自分の「処理能力」と「対人能力」の組み合わせによって進行するのが現実だ。

 また、対人能力が顧客に対して効果的に発揮されるか否かは、営業的な仕事において決定的だ。そして、殆どの仕事に営業的な要素がある。

 「社内営業」というと、あまりいい意味に使われないことが多いが、社内で自分の能力を効果的に使って貰うためには、社内に営業的な努力を振り向ける必要がある。仕事を頼んで貰えない秀才よりも、仕事の依頼が集中する凡人が、実績を伸ばすと共に、やがて能力まで伸ばすことになる場合が多々あるのが、ビジネスの現実だ。面接の巧拙なども対人能力に含まれるだろう。就職・転職にあって、面接の上手い下手は大きな差をもたらす。

 「対人能力」は、先天的に個人差があるが、後の努力で改善が可能だ。問題は、働く人本人が、そのことに自覚的であるかどうかと、改善のための努力の仕方を知っているかだ。

(2)人脈(=人間関係の集合)

 第二の要素は「人脈」だ。人脈は、自分が利用可能な人間関係の集合とでも定義するといいのだろうが、構築にも維持にも、時間と手間の掛かるものだが、ビジネスパーソンの財産の一つだ。自分が利用可能な良い人脈(人間関係の集合)を持っている人と、そうでない人とでは、仕事の成果に大きな差が付く。

 例えば、就職活動は、自分という商品を売り込む営業行為であり、多くの場合、社会人として行う最初の仕事だ。仮に、学生が、希望する就職先の社長と個人的に仲良くなることが出来ると、それだけで就職が可能になる場合がある。社長と直接でなくとも、その社長に対して有効な依頼が出来る人物(たいていはかなり年上の大人だろう)と親しければ、就職への道が開ける場合がある。

 ビジネスパーソンの人脈には、顧客(ないしは顧客に近い人)の人脈、社内の人脈、それ以外の人脈の三種類がある。

 顧客に近い人脈が、仕事の成果に直接結びつきやすいことは言うまでもない。顧客側の重要人物とどのように人間関係を作り、それを維持していくか、また、人脈の開拓と維持にどのように、時間とお金と努力とを配分するかは、営業的な仕事にあっては、能力の主要な構成要素だ。

 また、組織で仕事をする以上、社内の人脈も重要である。社外に向けた努力と、社内に向けた努力の配分をどうするかは、会社で働くビジネスパーソンにとって、常に問われる大きな問題だ。

 また、顧客でも、社内でもない、いわばメリットが直接的ではない人脈であっても、有益な情報やチャンスをもたらしてくれる場合があるので、侮れない。

 人脈は意図的に作ることができるが、作り方、維持の仕方、育て方などを知らなければならない。そのための方法を知って意図的に努力するか、しないのかでは、大きな差が付く。

(3)芸

 人は、仕事に直接関係のない趣味の領域(「芸」)でも高い達成度を持っている人に対して、尊敬を向けたり、好感を持ったりすることがある。また、共通の趣味が有効な人間関係の形成に役立つ場合があるのも事実だ。

 加えて言うなら、芸事であっても、高度な達成度合いを持つ者は、仕事にあっても高い達成意欲をもつだろうと推定することが可能なので、芸の高い達成は人材評価を改善することが十分ある。

 「芸」の内容は、スポーツでも、ゲームでも、文字通り芸能でもいいが、人材評価に有益なレベルのものとなると、その達成度合いには相当に突出した高さが求められる。分野にもよるだろうが、率直に言って、学生時代でいうなら学生チャンピオンクラスの実績・実力が欲しい。

 但し、そのレベルを達成するためには、相当な時間・お金・努力を「投資」する必要がある。例えば、時間を芸に投資することが有効なのか、勉強や人脈作りに投資する方が有効なのか、投資効率を判断して自覚的に意思決定することが大切だ。

(4)健康

 健康、あるいは体力の差を過小評価してはならない。秀才の高い処理能力も、その継続的な発揮を支える健康と体力が無いと、有効に機能しない。

 特に、健康に差が付きやすい、中年期以降は、健康であるか否かで、仕事のパフォーマンスにも、経済的な有利不利も、さらに出世の可否にも大きな影響が出る。大企業の社長レースで、たまたまライバルが脱落して、健康以外に取り柄のない人物が社長に落ち着いたりするのも、世間ではよくあることだ。

 健康は、得ようと思っても、急に得ることが難しい財産だ。若いビジネスパーソンは、このことに気づきにくいが、理屈を考えると、その重要性が分かるはずだ。

(5)経験

 ビジネスパーソンの評価を左右する要素の中には、いつどのような仕事に関わったかという「経験」の差もある。

 例えば、社内の新しいプロジェクトに関わることが出来るか否かに際して、過去にチームをマネジメントした経験があるか無いかが問われる場合がある。また、かつて起業にチャレンジしたことがある、といったビジネス上の経験も、評価されて人材価値の一部となる場合がある。

 また、仕事の環境が大きく変わるときにその変化に直接関わるような仕事をしていたかが重要になることがある。金融で言うなら、バブル崩壊のような大イベントにどのような形で関わっていたかが重要だし、エンジニアの世界でなら、専門分野の技術の変わり目にどう関わったかが大事になる場合があるだろう。たまたま、ある時期に自分が専門とした技術が廃れてしまって、技術と共にその技術の専門家の価値までが下がるような不運も起こり得る。秀才がそうした不幸を切り抜けられない場合もある。

 ビジネスパーソンは、常に自分で自分が関わる分野を選択できるとは限らないが、経験を選ぶことが出来る場合もある。自分の「時間」という貴重な資源を、どういった経験に投資したいのかについては、常に自覚的であるべきだ。

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 また、後から変化させることが難しい要素なので、今回は積極的に触れなかったが、個人の「容姿」とか「家柄」といった先天的な要素が決定的に働く場合もある。事の善悪はともかく、それが現実だ。

 また、自分がどの要素を持っていて、どうやってそれを育てるのかといった戦略の他に、どの業界(たとえば「銀行」とそれ以外など)のどういった会社(例えば外資系の会社)、さらにはどういった職種に就職・転職するかといった、「ゲームの場の選択」によっても、自分の人材価値は大いに変化する。ビジネスに限っても、人生は複雑なゲームだ。

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