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仕事に役立つ人脈ネットワークの作り方

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ビジネスで役立つ「人脈」を作るには、どうすればよいか。今回は、人脈作りの良い打ち手と悪い打ち手を考察する。

異業種交流会はダメ

 ビジネスの世界にあって「人脈」の価値を疑う人はいない。仕事を進める上でも、顧客を開拓する上でも、仕事のチャンスを得るためにも、組織の中で出世するために、キーパーソンと知り合いであり良好な関係を持っていることが役に立つ。一対一の人間関係(敢えて名付けるなら「コネ」)だけでなく、ビジネス上有用な人間関係をネットワークとして持っていることが、特に、役に立つ。

 今回は、人脈ネットワークの作り方について考えてみる。

 読者はエンジニアであるから、良い人脈ネットワークを考えて頂くには、ネットワークの図をイメージして頂くと分かり易いだろう。

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 例えば、自分がネットワーク上の一つの点であるとイメージしてみよう。自分にとってのネットワークの価値は、(1)価値の高い点と結びついていることと、(2)多くの点と結びついていること、(3)ネットワークの結びつきが強固であること、の3つによって高められる。

 図に書くとすれば、(1)人の価値の大小を丸の大きさに、(2)人と人との結びつきを線で、(3)結びつきの強さを線の太さで表してみると、現実の人脈ネットワークの価値が図解出来る。イメージをもう少し膨らますなら、より価値の高い点(人)と、より多数、より太いつながりを持っている点は、大きな丸として描かれると考えてみよう。動的には、ネットワークの価値が上がることによって、点が育つイメージだ。

 それでは、はじめに、人脈作りでダメな例を一つ挙げる。それは、「異業種交流会」である。

 もちろん、様々な分野の人と知り合いになることは視野を広くするし、これが顧客の開拓につながることもある。異業種交流会のどこがダメなのだろうか。

 前記の(1)、(2)、(3)に対応して説明すると、(1)そこに来ている人は重要人物である確率が小さい(重要人物は多忙であるし、人脈に不自由していない)、(2)そこにいる人はネットワークが乏しいから異業種交流会に来ている、(3)異業種でしかも短時間に多数名刺交換するので将来につながる人間関係が出来にくい、といった構造的理由により、異業種交流会は良い人脈の形成に役立ちにくいのだ。

 筆者も、主に若い頃だが、異業種交流会的な集まりに何度か出た事があるが、名前を見ても持ち主の顔が浮かばないような名刺の数ばかりが増えて、結局、後から連絡を取ることもなく、後の変化はと言うと、保険などのセールスの電話が掛かってきただけというような、情けない飲み会が多かったように思う。

 何事も経験であるから、異業種交流会的なパーティーに一切行くなとは言わない。但し、会費と時間のモトを取るためには、(1)あらかじめ軽く食事を採って会では人との話に集中すること(この種の会は、主催者が予算を節約して利益を出そうとするためか、料理も美味しくないことが多い。それに、もともと食べることが目的ではない)、(2)名刺の数にこだわらずターゲットを絞って次回に合う約束ないし合意をその場で取り付けること、の2点に注意することをお勧めする。

 尚、会の後にプライベートで会うことが出来た人とは、なるべく間を置かずに、もう一度会う機会を作る努力をしたい。何らかの「用事」を作るなり、共通の趣味でも見つけて、次に会う約束を取り付ける。「プライベートで一度会った上で、また会う」ということは、「お互いに会う意味がある関係」であることを具体的に確認することになる。例えば、1〜2カ月の間に2度会っておいたら、向こう2、3年は、お互いに十分「知り合い」だという意識を持って、相手を人脈に組み入れることが出来る。先ほどの図解でいうなら、太くはないが、ハッキリした線で自分と相手とを結ぶことが出来る。

「勉強会」の幹事をやろう!

 異業種交流会がダメだということはお分かり頂けたと思う。それでは、良い人脈作りの方法を一つお教えしよう。

 それは、「勉強会」を作って、自ら幹事をやることだ。ビジネスに役立つ人脈を作るという意味では、社内であっても、社外であっても、これが誰にでも出来て最も有効な手段ではないかと思う。

 勉強会のテーマは、仕事に関連するものであれば理想的だ。たとえば、最新の経済学や経営学のテキストを読む勉強会を作ってもいい。大学を卒業してそれなりの時間が経ったビジネスパーソンにとっては、最新のテキストを読み直すことが役に立つし、経済が専門でない参加者にとっては、経済学・経営学の考え方を知ることが仕事を考える上でプラスに働く。経済学でなく、法律やデザインなどでも良かろう。

 或いは、仕事で使う機会がある場合、スペイン語、中国語、フランス語などの会話や作文(添削)、あるいは読書会などを作るのもいいかも知れない。こうした英語以外のいわゆる第二外国語の場合、社外まで範囲を拡げることができると、将来の仕事や、場合によっては海外赴任先の生活にも役立つネットワークが出来る可能性がある。先生的な役割のメンバーには飲食費を無料にして、それぞれの国の料理とお酒を楽しみながら集まるといった会でもいい。

 もちろん、音楽やスポーツなどの趣味の集まりでも、親しい人間関係が出来るので、会を作ることは無駄ではないが、仕事に有益な人ばかりが集まる訳ではないので、ビジネス向けのネットワーク形成法としては、やや弱い。

 ここで効果的なのは、どのような集まりであっても自分が幹事を務めることだ。幹事になると、全てのメンバーと、メールなどのやり取りなどが否応なく生じる。頻繁にやりとりするうちに、メンバーと仲良くなる切っ掛けが出来やすいし、一般には面倒だとされる幹事役を務めることで、個々のメンバーに「小さな恩」を売ることが出来る。

 せっかく集まりを作って置きながら、「幹事は持ち回りで」といったやり方をする人がいるが、これは、フェアではあるかも知れないが、「もったいない!」。ビジネスパーソンとしては、一歩踏み込みが足りないと申し上げておく。

 振り返ってみると、筆者のいわゆる「同期」で、世間的には最も出世した人物は、先ず、入社後しばらくの間、社内の有志を募って早朝に英語の勉強会を開いていた。その後、入社十数年の中堅社員になってからは、会社や業界をまたぎつつ、ほぼ同年代の各社や官庁で「できる」といわれている人だけを集めた十数人から二十数人の、主に経済問題をテーマとする勉強会を組織して、長く維持した。

 後者の勉強会は、広い個室を確保出来る中華料理店で行われることが多く、メンバーないしゲストの講師を呼んで、専門分野のレポートをさせて、議論に移る構成だった。同年代の気楽さがあり、且つメンバーは厳選しているので、議論は活発だった。また、そのメンバーに入ること自体が人脈形成上価値を持つので、メンバーの勧誘が容易だった。その後、仕事を取る上でも、情報を得る上でも、このネットワークは、彼にとって大いに役立った。

 ここまで来ると勉強会としては大成功だが、そこまで行かなくても、目的を持った集まりを組織し、自分が中心人物になることには大きな意味がある。実力的に自分が「中心人物」ではない集まりでも、幹事を務めると、ネットワークの中心に近い位置に自分を置くことが出来る。

 先ほどの図解で考えるとしても、点が集まる場所の「周辺」よりは「中心」に居る方が、多くの点との間でコミュニケーションの線を結びやすいことが了解出来よう。

 「勉強会」以外にも、「忘年会」、「新年会」、「花見の会」、「誕生会」(厚かましいが自分のでもいい)といった「○○の会」を企画して、人を集めて人脈を作っている人もいる。こうした集まりでも、「呼ばれる側」になって漫然と出かけるのではなく、「呼ぶ側」になって出来れば自分が幹事役を務め、コミュニケーションの中心に入ることが重要だ。

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人脈ネットワークに関する筆者の反省

 筆者は、ビジネスパーソンとして、人脈の達人達には到底及ばないが、平均的なビジネスマンよりも、サイズ的に大きくて価値のある(そこそこに深くもある)人脈ネットワークを持っていると思う。

 しかし、これは、主として幸運によるものであり、適切な戦略を持っていたら、もっと価値の高い人脈ネットワークを持っていただろうと思う。

 筆者の場合、端的に言って、多数の転職を重ねて一緒に働いたかつての同僚が広い範囲にいることと、書いたり・話したりを手段とする対外的な情報発信の仕事が多いことで、出来た人間関係の数が多いだけなのだ。

 また、筆者の人脈ネットワークは、専ら受動的に、半ば自然に、出来たもので、筆者がこの人、この集団と強い関係を作りたいと目的を持って作ってきたネットワークではない。

 勉強会やパーティーについては、おかげさまで呼んで頂く機会は多かったが、自分で企画し、目的を持って人を集めるようなことを、殆どしたことがない。

 今回、この原稿を書いてみて、改めて、自分の人脈ネットワーク戦略が不適切で且つ貧しいものであったことに気づいた。

 大いに反省している。遅ればせながら、勉強会でも作ってみようかと思う。

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