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アマゾン、440億円の大型買収へ。ベゾスも恐れるダイパーズ、驚異的成長の秘密

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Amazonが、Quidsiを買収すると複数のブログメディアが報じた。買収額は540百万ドル(約440億円)だ。

Quidsi(以下、運用サイトDiapers[ダイパーズ]と略する)は、創業2005年。ベビー用品コマース Diapers.com を中心に、Soap.comBeautyBar.com を運営している急成長ベンチャーだ。特にDiapers.comの成長は驚異的で、わずか創業4年にもかかわらず、2009年売上で180百万ドル(約146億円)、2010年売上は300百万ドル(約244億円)は達すると見込まれている。

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【急成長ベビー用品コマース Diapers.com】

ちなみに、Amazonの大型買収は、900百万ドル(約732億円)を投入したZappos以来だ。
アマゾンが800億かけても買収したかった「ザッポスの奇跡」 (12/7) 

このZapposとDiapersは、巨大企業Amazonすら恐れる急成長コマースベンチャーの代表格だが、その特徴は右脳と左脳に例えられるほどに異なっている。そして、それぞれが「創業者の思考回路」とストレートに一致している点が実に興味深い。

まず、Zapposは、このブログ読者であればほとんどの方がご存じであろう。筆者も個人的に心から敬愛する超顧客志向カンパニーだが、その特徴は、創業者トニー・シェイ氏のパラノイア的な、いわば性善説に基づく顧客志向そのものと言ってよい。

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【Zappos創業者、トニー・シェイ氏】

対するDiapers創業者マーク・ロアー氏の思考回路は、ずばりスーパーロジカル。経営に関するあらゆるものを数式化し、徹底的かつ継続的に分析し、その結果を直ちに経営に反映させるという科学的手法で、Diapers.comを急成長させたのだ。
 
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【Diapers創業者、マーク・ロアー氏】

例えば、Diapers創業にあたって、彼が最初に着手したのは「倉庫業務最適化の独自アルゴリズム」だ。それは、倉庫内のボックス数やボックスサイズ、ボックスの種類はいくつが最適なのかなどなど。そしてそのアルゴリズムは成長にしたがって毎月見直されていく。さらに彼の興味は倉庫だけではない。商品の選択、価格、顧客サービス、配達スピート、在庫率、ウェブでの買いやすさ ... あらゆる経営情報がシステム化され、徹底的に分析され、継続的に改善されているのだ。なんと普通ではない発想の持ち主だろう。

参考まで、ロアー氏の一日を特集した記事 (The Way I Work) も実に興味深いので軽く紹介しておこう。(よく読むと、家族を大切にするなど、とても人間的なところもお持ちですので、皆様ご安心を)
 
朝起きるのは6時15分、ジョギングしたりして出社するのは9時ちょうど。すると共同創業者のヴィニーら数名が「昨日は 〜 を考えたんだけど ... 」と話しかけて来て、すぐにディカッションがはじまる。彼らの席は部門にわかれておらず、創業者も含めて意図的にカオス状態にされており、組織の壁はまったくない。

昼食もヴィニーと45分かけてドライブし、寿司を食べながら会議、もどってくると昼食中に会話された試案をすぐに社員と共有する。帰宅したのちも、夕食以降は毎日アルゴリズムの見なおしや競合企業の分析を続けている。この記事のタイミング(2009年9月)で彼が注力しているのは、リスティング広告(Pay per Click Marketing)の分析だ。なんと半年もの間、夜2, 3時間も熟考しているようだ。何をそんなに考えているんだろう(笑) とにかく思考が継続しているので、ベッドに入ってもいつ寝たのか定かではないことが多いらしい。
 
そして連続思考による芸術作品が彼らのDiapers倉庫だ。フットボール場が20個入る巨大スベースに、53通路が最適化して配置され、約5万種類の製品を、23種類のボックスに分別して在庫してある。そしてその在庫をさばくのは、人間ではなく260台の自律的に動くネットワーク型ロボットだ。中央管理されて複数で動く自動お掃除機ルンバをイメージすれば分かりやすいだろう。


ちなみに、このロボットシステムは、MIT卒業生たち(ルンバを開発したiRobotもMIT出身ベンチャー)が設立した急成長ベンチャー、Kiva Systems(デモビデオ)が開発したものだ。
 
通常の倉庫業務では、ピッカーが巨大倉庫内で商品を見つけ、それをパッカーが梱包するというシリアルな人力共同作業だったため、巨額の人件費がかかっていた。このシステムを利用すると、ネットからの受注がダイレクトに数百台のロボットに伝えられる。それぞれは中央から情報をもらいながらも自律的に最適な軌道を選択し、他のロボットとの衝突を避けながら倉庫内を自走する。そして注文商品の棚をピックアップすると、これまたバッカーのもとに最適ルートを選択しながら自走していく。パッカーに商品を渡したロボットは、その時点で最適と思われる場所にその棚を置くという驚きのパラレル処理システムだ。さらに詳しくは「巨大倉庫で働く自律型ネットワークロボット」(Wired Vision) をご参照あれ。
 
Kiva Systemsのロボットは、AmazonやZapposでも一部の倉庫で採用されているが、他のアルゴリズムとも相まってDiapersの倉庫効率性は群を抜いており、ベゾスはそのノウハウを手に入れたかったようだ。
 
非常に興味深い会社だったので、ずいぶんと深堀して調べてしまったが、実はDiapersもコールセンターでの顧客満足には大いに注力しているし、一方のZapposもロボットを採り入れ倉庫業務の最適化を図っている。それぞれ偏った(弱みを持った)経営をしているわけではないということも急成長のポイントだろう。
 
いわゆるAmazon型コマースは、(1)ウェブサイト (2)サーバー (3)物流センター (4)コールセンター と4機能に対して、巨額の先行投資とノウハウが必要となるビジネスだ。Amazonは、自社で(1)(2)を比類なきレベルに仕上げた上に、(3)でDiapers、(4)でZappos という、世界最強の助さん格さんを引き入れたことになる。
 
全品無料配送の背景には、これだけのスーパーノウハウが存在しているのだ。日本国内では楽天との激突が注目されているが、単純な無料配送競争で、この奥深い怪物企業を追走するのは困難なことかも知れない。顧客サービス、科学的アプローチ。もとをただせば日本の得意分野だったはずだ。若い精鋭ベンチャーが彼らに触発され、日本発世界レベルのサービスが生み出されていく日が来ることを心から期待したい。


[追記]
日本時間で11月8日23時、Amazonが、Diapersの買収を正式にアナウンスしました。買収金額は総額545百万ドルどのことです。(Amazonプレスリリース)

 

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Comment(1)

コメント

sis

とても興味深い記事をありがとうございます。
アメリカはベンチャーの成長が尋常じゃないですね。Grouponといい、創業まもなく売上100億を超えるなんて日本ではそうそう無いでしょう。(どこかの子会社でないかぎり)
日本では起業(そして失敗)するのがとてもとてもリスキーであることで、慎重になりすぎて、初期投資も押さえ気味とか、になってるのかもしれませんね。
お金がなくても成功できればいいですが、やはりお金があると成功率は上がるのは確か。
デフレの現状ではさらに難しいか。

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