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ビジネスパーソンの出版戦略:林雅之さんインタビュー(その3)「出版したいビジネスマンへのアドバイス」

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オルタナブロガーの林雅之さんとのインタビュー、第1回目第2回目に続き、今回は最終回となる第3回目です。

(インタビュー実施日:2010年2月17日)

 

■ブームを予測する近道は、ブログを毎日書くこと

N: 「林さんは旬なテーマの予測をするために、どんなことをなさっていますか?」

H: 「まずブログを毎日書くことを心掛けています。そうすると色々なことにアンテナを張り巡らすようになるんですよね。そして世の 中の動きに先行する情報を見つけたら、必ずブログに書くこと。そうすると、コメントが返ってきたり引用されたりして、必ず情報が返ってきます。さらに先駆 者的なイメージができる、という先行者利益もって、本を書いて欲しいという話も来たりします。先駆者イメージをいかに付けるかがカギですね。実は僕、クラ ウドの本を書き始めた時は、クラウドの専門家ではなかったんですよ」

N: 「え!そうでしたっけ?」

H: 「ブログにはクラウドの話しを4-5回書いた程度で、あまり理解していませんでした。色々な人の話を聞きながら、書いていったんですよね。この時点で、クラウドの専門家っていなかったでしょう」

N: 「なるほど!考えてみると、旬なものって、最初は誰も知らない訳で、専門家はいないですね」

H: 「専門家になってから本を書くのではなく、書きながら専門家のゴールを目指していきました」

N: 「うーん、なるほど.....。とてもいい話しを聞きました」

H: 「旬のテーマだと、専門家になってからだと遅いんですよね。もちろんオリジナリティを出せればいいんですけど、難しいですからね」

N: 「考えてみると、私の場合は逆ですね。10年くらいかけてマーケティングの専門家になってから、やっと本を書きました」

H: 「そう、そういうテーマもありますよね。自分の哲学やコアスキルを書く場合は、永井さんの本のように、専門家になって書く形に なるんじゃないでしょうか。多分、分野が違うんでしょうね。あと、ビジネスパーソンが出版するためには、ちょうど、今回、永井さんがやっているように、現 場に足を運んで積極的に話を聞くべきだと思います。僕も積極的に色々な人の話を聞きました」

 

■出版したいと思った動機は、現状打破だった

N: 「林さんが出版したいと思った動機は、何だったんでしょうか?」

H: 「実は30代後半になって、会社員として勤務していてなんとなく限界を感じていたんですよ。なかなか自分の思い通りにいかないし。現状を打破したいと思っていました」

N: 「ビジネスパーソンでそう考えている人は、多いですよね」

H: 「そんなことが理由で、まず第一歩としてブロガーの知り合いを増やしたいと思って、オルタナティブ・ブログに参加しました。そしていつかは本を書きたいと思っていたんです」

N: 「そこで林さんにお会いできたんですね」

H: 「実はとても大きく影響を受けたのが、田坂広志さんの『プロフェッショナル進化論』でした。永井さんがブログで書評を書いてい たのを見て、早速本を買いました。永井さんに初めてブロガーの集まりでお会いした時にも、永井さんに『プロフェッショナル進化論読みました』とお話ししま したけど、田坂広志さんを知ったのも、永井さんの書評がきっかけでした」

N: 「それは、とても嬉しいですね」

H: 「それで、『個人シンクタンクになるためには、毎日ブログを書かなければ』と思いました。出版するためには、それくらいは努力 しないと、と。その数日後、初めてブロガー会議に参加してみたんですけど、経営者やすごいビジネスマンが沢山いることが分り、とてもかなわないと思いまし た。平凡なビジネスマンの自分が、みんなに追いついて対抗するためには、毎日地道にブログを書いて、出版に繋げていく努力をしないと、と思ったんですよ ね。ビジネスパーソンはこれくらい努力をしないと、出版は実現できないんじゃないかと思います」

N: 「林さん、あの時に『毎日ブログを書きます』って宣言なさっていましたね」

H: 「それ以来、ブログを毎日書いています。2010年2月末で連続1000日になりますね。(注:8月で連続1200日)」

N: 「私も一時期毎日書いていたんですけど、途中2年ほどブランクがあって2-3日に1回のペースになりました。毎日更新と比べると、緊張感が全然違うんですよね。2009年11月末からまた毎日書いていますが、まだまだです」

H: 「数年前に永井さんが毎日書いていた頃、ブロガー会議でプレゼンされましたよね。そこで永井さんに『毎日書く秘訣は?』と聞い たんですよ。確か『無理に毎日書かず、どうしても書けなかった時は、月の日数分書く』って言っていましたよね。結局、モチベーションを駆り立てるものがな いと、ブログを書くにしても出版するにしても、できないですね。ブロガー会議で動機付けできたと思います。オフラインは大切ですね」

N: 「ブログを書く前は、文章とか書いていたんですか?」

H: 「文章を書きはじめたのはブログを始めてからです。実はそれまで、文章はほとんど書いたことがありませんでした。本もほとんど読みませんでしたし。本を読むようになったのも、ブログを始めてからです。ブログのネタで必要ですからね」

N: 「ブログのおかげで、インプットとアウトプットが活性化したんですね」

H: 「結局、ブログを書けなければ本を書けないですね」

 

■出版したいビジネスマンへのアドバイス

N: 「出版したいというビジネスパーソンに、アドバイスはありますか?」

H: 「まず毎日ブログを書くことですね。毎日書けば、そのうち自分の興味が分ってきます。自分の場合、当初ブログSNSの視点で書 こうと思っていたんですよ。実はオルタナティブ・ブログで目標となる人がいたのですが、ブロガー会議でその人に『アクセス伸びないんですよね』と相談した ところ、『それは無理して書くからですよ』と言われたんです。ちょっとショックでしたね。そこで視点を変えて、情報通信系のように、自分が得意で居心地の いいテーマを書くように心掛けました」

N: 「自分の得意なテーマを書くっていうのは、大切ですね」

H: 「もちろん、テーマを色々と拡げる意味で、あえて色々と書くことは大切だと思います。そこで自分に合っていないことを認識する のもいいですし、意外に自分に合っていることを発見すればそれは財産ですからね。クラウドは、そんな中で書いてみたテーマです。最初はしんどいテーマでし たけど、自分に合っているように感じられました」

N: 「本まで出されましたからね」

H: 「それを繰り返して、ブログで色々なテーマを書いていると、自分のポジショニングや書きたいテーマが次第に見えてくるんですよ ね。自分自身が感じることや、誰が何を期待しているかも分ってきます。それを続けているうちに、ブランディングができてくるんじゃないかと思います。毎日 書きながら、構成を考えていく、というのが、自分に合っているように思います」

N: 「本を出した時はいかがでしたか?」

H: 「書店に並んだ時の感動は忘れられないですね。でも、逆に逆に怖さもありました。色々な人がクラウドのことを書いていたので、刺されるんじゃないか、とか。(笑) 実際にはそんなことはありませんでしたね」

N: 「逆に、本を書くことで失われたモノはありますか?」

H: 「強いて言うと、プライバシーくらいかなぁ、と思います。あまりないような気もします」

N: 「私の場合、本を書いている期間は、時間がすごくなくなりました」

H: 「ああ、時間ですね。時間のコントロールは必須ですね。僕の場合、1月中旬校了だったので正月はありませんでした。3-4時間 の睡眠が続きましたね。こんな中でも続けるためには、『絶対出すぞ』という強い気持ちが必要ですね。パワーも必要だし、気持ちを入れないと書けないです ね」

N: 「そんな中で、ブログは毎日書き続けていらっしゃいましたよね」

H: 「ブログも毎日続けられるか、本当に悩みましたが、根性で続けました」

N: 「しんどかったでしょうね。私の場合は、本を書いていたときは執筆に集中していて、ブログを書くのは止めたんです」

H: 「忘れられないのは、執筆の終盤になって、深夜、すごく疲れて眠たくて死にそうなんですけど、手だけが勝手に動いている状態で 書いている時です。何か『乗り移った』ような状態で書いたんですよ。編集部が『林さん、こんな文章、書けるんですか?』と言われるようなすごい文章が書け ました」

N: 「『神が降りてくる』って感じですね」

H: 「そうなんですよ。特にあとがきの部分は一瞬で書いたんですよね」

N: 「こうして考えてみると、出版で失われるものって、自分でコントロール可能なものなんですよね」

H: 「全くその通りですね。あと大切なことは、このような形で本を書くのは、家族の協力がないと絶対に書けないですね。実は最初は怪しまれました。『騙されてお金を取られるんじゃないか』とか」

N: 「家族の協力は確かに必須ですね」

H: 「実は、この時期にもう1冊の本の話が来ていたんですよ。2冊を並行して書こうと思っていました。しかし、妻が『一冊に集中し て、もう一つの方は断りなさい』と言ってくれたんです。どうも2冊同時に話が来ていて、自分で舞い上がっていたようです。家族が教えてくれんですね。あん まり欲張らない方がいいですね。お断りした出版社さんには本当に申し訳なかったんですけど」

N: 「本はご自宅で書かれているんですか?」

H: 「基本的に自宅で書いています。僕は新幹線通勤をしていますけど、アイディアが浮かぶ場所があって通勤の時はアイディアをメモ書きしていました」

N: 「なるほど、私も『朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力』を書いていたときは、いつも喫茶店で書いていましたね」

H: 「人によって場所によって役割を変えるといいようですね」

N: 「今日はお忙しいところ、とても濃い内容をお教えいただき、ありがとうございました。また新しい本を出されるのを楽しみにしています」

 

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