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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

すべてがデータになる時代

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宗教とIT。正反対の存在のように見えて、実は密接に関わっている例が少なくないのですが、先日もこんなアプリが登場しているのをニュースで知りました:

Ignio | The only iPhone app that helps you share, live, and track your Catholic faith

ignio

名前は"Ignio"(ラテン語でignite、火がつく・火をつけるの意)。カトリック教徒向けのアプリなのですが、なかなか面白い機能が搭載されています。まずダウンロードしただけでは機能が制限されていて、アクティベートするためには既にIgnioのユーザーとなっている他の信者と、iPhoneを「乾杯」の要領でぶつける必要があります。すると自分のIgnioに「火がついて」、全ての機能が使用できるようになるという仕組み。

キリスト教の経典と言えば聖書ですが、Ignioにも当然関連機能があり、聖書の一節が日々表示されるようになっています。これに対してコメントを投稿することも可能で、他の信者たちと意見を交わすことができると。コミュニケーション機能は他にも用意されていて、例えば自分の祈りをテキストで投稿すると、SNS的に他のユーザーからもコメントが入るようになっています。さらに最近のソーシャルメディアといえば位置情報機能ですが、Ignioでは教会に「チェックイン」ができるようになっているという徹底ぶり。宗教という共通の興味を軸にしたコミュニティー向けアプリだと考えれば、他にも参考になりそうなアプリかもしれません。

そして面白いのは、Ignio上の行動(他人のIgnioをアクティベートする、聖書の一節を読む等)が記録され、グラフ化して表示されるという仕組み。Ignioはこれを「信心を記録(track)する」と表現しているのですが、まさに「信心」という目に見えないものを、記録できる1つの形にして把握するものと言えるでしょう。もちろん聖書を読むことや他の信者と交流することだけが信心の形だ、というわけではありませんが。

インターネットが普及し、さらにスマートフォンが当たり前の存在になりつつある中で、何かをデータに変え、それを共有するということがずいぶん楽になりました。目の前に広がる光景は、カメラを通じて画像や映像になり、居場所はGPSを通じて緯度・経度へと変換されます。そしていまや、聖書に触れた回数や、誰かと信仰について語り合った回数まで記録され、共有されるわけですね。昨日個人ブログの方で、買い物リストを作成できるというWalmartのiPhoneアプリについて紹介したのですが、これも考えてみれば、「買い物リスト」というごく私的なものがデータ化され、Walmartという企業が詳細に把握できるようになるという可能性を秘めています(WalmartはこれまでもIT化やデータ分析に力を入れてきたので、当然その方向性を考えているでしょう)。つまりこれまでは数えようがなかった事柄や現象でも、アプリやサービスを上手くデザインして提供してやれば、データ化して収集できるようになっているわけです。

最近、大容量かつ多様なデータセットを高速で分析できるという「ビッグデータ」の概念が注目を集めていることはこのブログでも最近触れてきた通りですが、新たな分析ツールを手にすることと平行して考えなければならない要素の1つは、「どうやってデータを用意するか」という点ではないでしょうか。従来でも、お店に来るお客さまの属性を把握するためにポイントカードを発行する、作品に対する感想を把握するために読者カード(プレゼントつき)を挟んでおく、といった工夫が行われてきました。しかし現在では上記のように、教会にやって来る人々の行動を把握する、お客さまの買い物リストを把握するといったことまでアプリを通じて可能になっています。またそれだけ容易になっているということは、自分が欲しいデータセットを既に外部の誰かが手にしている可能性もあり、それを買えば良いという判断もできるでしょう。要は新しい発想でデータをデザインすること、あるいはその戦略を考えることが大切なのだと言えるでしょうか。

逆に言えば、これからの消費者は「自分たちのあらゆる行動はデータ化されているかもしれない」という意識を持つことが大切なのかもしれません。便利なアプリを使っているうちに、その上でのデジタル行動記録がどこかで分析され、何かに使われている――それはもちろんリスクの問題であり、必ずしも悪い結果をもたらすものとは限りませんが、そんな事態を意識していることが重要でしょう。少なくとも上記のように、ビッグデータを分析できる新たなツールが実用化されつつあるいま、データを増やそうというインセンティブが弱まることはないのですから。

< おしらせ >

「AMN新書」企画に参加して、『ビッグデータ社会の到来』という短い電子書籍を書かせていただきました。簡単なまとめですが、無料で公開していますので、よろしければ是非。

【○年前の今日の記事】

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