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「イラン問題に配慮してメンテナンス時間変更を要求」の是非

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2009年6月――イランで反大統領派による抗議活動が発生し、その中でTwitterによる情報発信が注目された結果、ヒラリー・クリントン国務長官によりTwitterのメンテナンス時間に注文がつけられるという事態が発生したの覚えていらっしゃる方も多いでしょう。実際にTwitterは予定されていた時間を変更し、イランでの利用が少ない時間にメンテナンス作業を移しています:

Twitter、イラン問題に配慮してメンテナンス時間を変更 (ITmedia News)

米Twitterは6月15日、同日夜に予定していたネットワークアップグレードのためのサービス停止を、米太平洋時間の16日午後2時~3時に変更したと発表した。その理由として同社は、Twitterは現在政治的混乱にあるイランのユーザーにとって重要なコミュニケーションツールになっているため、同国での利用が少ない午前1時半にスケジュールを合わせたとしている。

この出来事、ソーシャルメディアの重要性を強く認識させるものとして随所で紹介されていますが、「Twitterの果たした役割は僅かなものであり、過度に強調されているのではないか」という批判が当時からなされていました。現在でも、以前紹介した本"Net Delusion"の著者、Evgeny Morozov氏らなどによって批判が行われているのですが、「逆にこの決定は有害ではなかったのだろうか」という意見も出てきているそうです:

Researchers skeptical DOD can use social media to predict future conflict (Stars and Stripes)

以前から米国政府はソーシャルメディア監視に取り組んでいますが、最近ではそれをさらに高度化し、ソーシャルメディア上の書き込みを解析することで未来予測ができるのではないか?という研究が行われているとのこと(参考記事)。しかし記事ではそれに反論する意見を紹介し、少なくとも現時点においては、ソーシャルメディアを占い師の水晶玉にすることは難しいという研究結果が取り上げられています。

さらに記事は、最近の「アラブの春」におけるソーシャルメディアの影響力を分析した研究を取り上げ、それが一種の「メガホン」的なメッセージ拡散をするものでしかなく、逆に大量のメッセージが投稿されることで第三者をうんざりさせる・重要な情報が伝わらないといった弊害もあったことを指摘しています。そして冒頭のイランの例については、こんな解釈が:

In 2009, in the middle of the Iranian protests, Twitter lit up with solidarity messages from around the world, meant to aid the protest moment’s organization and circumvent Iranian censorship. The U.S. urged Twitter to not go through with a scheduled weekend maintenance outage. That move was a mistake, according to Henry Farrell, associate professor of political science and international affairs at George Washington University who studies politics and the Internet.

Few protestors in Iran were actually using Twitter, compared with the foreign audience for it. Instead, the U.S. move drew unnecessary attention to Twitter and allowed Iran to portray it as a tool of the U.S. government.

“Direct efforts by the U.S. to leverage this are likely to result, at best, in somewhat problematic situations,” he said, “at its worst in disaster.”

2009年にイランで発生した反政府抗議活動の最中、世界中から団結を呼びかけるメッセージがTwitterに投稿され、抗議団体を支援してイラン政府の検閲を回避しようとの訴えが行われた。米国政府はTwitterに対し、週末に予定されていたメンテナンスを延期し、同サービスが使えなくなることのないよう求めている。ジョージワシントン大学の政治学准教授で、政治とインターネットの関係を研究しているヘンリー・ファレルは、この行動を誤りであると指摘した。

海外でこの出来事を見守っていた人々に比べれば、イラン国内の抗議活動参加者の中でTwitterを使っていた者はごく僅かであった。逆に米国政府の行動は、不要な注目をTwitterに集めることになり、イラン政府が同サービスを「米国政府の道具」であると訴えることを許してしまったのである。

「このような形で直接的な介入を行うことは、何らかの問題を起こすのが関の山であり、最悪の場合は壊滅的な状況をもたらすだろう」とファレルは述べている。

仮に「Twitterはイランの抗議活動を組織化する重要なツールであった」という解釈が正しければ、政府がメンテナンス時間を変更せよ指示するという状況も正当化されるかもしれません(それでも秘密裏に行うといった配慮は可能だったでしょうが)。しかし様々な研究者が分析しているように、イラン国内における利用が当初考えられていたのよりも少なかったのであれば、逆に米国政府のアナウンスがイラン政府の気を引き、彼らがTwitter対抗策を実施することを許す->Twitterが本当に活動家が利用するツールとして普及することが阻害される、という結果を招いていたのかもしれません。

実はTwitterのメンテナンス時間変更をおおっぴらに求めるという米国政府の行動に対しては、「イラン問題に取り組んでいること/ネットの重要性を理解していることを示すパフォーマンスだったのではないか」との指摘もあります。良くも悪くも注目が集まっているTwitterに絡むことで、実際の効果はどうであれ国内向けのメッセージは伝わるというわけですね。今となってははっきりとした結論を述べることはできませんが、反大統領派の行動が不発に終わっていることは事実であり(彼らの勝利がイランの将来にとって良いことかどうかは別にして)、米国政府が期待していたような状況にはなっていません。

革命や紛争といった特殊な状況だけでなく、いま様々な場面で公的機関がソーシャルメディアを活用し始めようとしています。一見合理的で、好ましい結果をもたらすと思えるような施策であっても、実は現状に即していなかったり、まったく逆の結果を導いてしまうリスクもあるということを、私たちはよく理解して行動する必要があるのではないでしょうか。

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