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iPhoneアプリとインティファーダ

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先日はフラッシュモブにiPhoneアプリを組み合わせるという話でしたが、今日はもう少しシリアスな話。App Storeにインティファーダ(イスラエルによるパレスチナ占領に反対するための抵抗運動)を支援するアプリが登録されたものの、イスラエルからの抗議を受けたアップルによって取り下げられるという事件があったそうです:

Apple under fire for pulling Intifada app (The Independent)

そもそも審査を通過させた時点でアップルも覚悟を決めておけよという感じですが、以下のようなアプリだったようです:

The Arabic-language app ThirdIntifada, released by Apple just days ago, provides users with details of upcoming anti-Israel protests, access to news articles and editorials, and links to Palestinian nationalist material.

In calling on Apple to act decisively, Israel's public diplomacy minister Yuli Edelstein said the iPhone app was "anti-Israel and anti-Zionist", and warned that it could "unite many towards an objective that could be disastrous".

数日前にリリースされたばかりのアラビア語のアプリ"ThirdIntifada"は、予定されている反イスラエル抗議活動の詳細に関する情報や、ニュースや論説記事、パレスチナ民族主義に関する様々な資料へのリンクなどをユーザーに提供していた。

イスラエルの外務大臣Yuli Edelsteinは、アップルに対して断固たる措置を取るように求め、このiPhoneアプリが「反イスラエル的、反シオニズム的だ」と訴えた。また同氏は、このアプリが「大勢の人々を破滅的な目標に駆り立てる」可能性があると警告している。

権力に抵抗する人々がネットの力を活用しようとし、それに対抗するために権力側が妨害を行うという構図は、今年1月のチュニジア革命や2月のエジプト革命でも見られたものです。その際には、妨害されたウェブサービスの運営者たちは対抗処置を取った(つまり反乱側を支持する姿勢を見せた)わけですが、今回は権力側の要請を受け入れたと。ただFacebookについては、今回のアプリと同じ"ThirdIntifada"という名前が付けられたページが立ち上げられ、イスラエルの要請を受けたFacebookが同ページの削除に応じる(ただしその後同様のページが次々立ち上げられる)という状況になっているようです。

ここでどちらの決定が優れているとか、運営者たちは異なる判断を下すべきだったとか言うつもりはありません。ただチュニジアのケースの際にも述べたように、ネットを通じたサービスを運営する企業には、一種の「公共財」を提供する存在として重要な判断を迫られる時代が到来しているのでしょう。可能性のレベルで言えば、それはミクシィやモバゲーといった国内のソーシャルメディアサービスにとっても無縁の話ではないはずです。

また一連の流れは、以前ご紹介した本『インターネットが死ぬ日』や、クリス・アンダーソンの挑発的な問題提起「ウェブは死んだ」行われていた議論を思い出させます。PCとブラウザの上に展開される(比較的)オープンなネットから、モバイル端末とアプリの上に展開されるクローズドなネットへ。そこでは運営者の意志が絶対的な力を持ち、支持するのが権力側であろうと反乱側であろうと、ユーザーはその決定に服従するしかありません。便利さと引き替えに、こうした環境に安穏としていて良いのか――ユーザーとしてできることは限られていますが、少なくともこうした問題意識を頭の片隅に置いておくのは大切なことではないでしょうか。

とはいえ、イスラエル政府がアップルに対して抗議を行ったというのは、逆に言えばそれだけ潜在的な脅威を認めていたことの裏返しでしょう。インティファーダのような政治的・社会的活動にもスマートフォンを活用しようという流れは、これからますます広がりを見せて行くのではないでしょうか。

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