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公共財としてのFacebook

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検索エンジンが生活の中で欠かせないツールとなってから、Googleには公共性が求められるようになりました。私企業なのですから自社サービスの運用をどのように行っても構わないはずですが、例えば中国政府の要求に屈した時などには、激しい非難を浴びる結果となっています。

この例を当てはめるとすれば、「6億人のユーザーを持つ巨大な『国家』」という形容詞が頻繁に使われるようになったFacebookにも、一種の公共財として責任ある行動が求められるようになるでしょう。事実プライバシー問題などにその傾向が見えていますが、Atlantic誌が興味深いケースを伝えています:

The Inside Story of How Facebook Responded to Tunisian Hacks (The Atlantic)

このブログでも何度か取り上げている、チュニジアで起きた独裁政権崩壊事件。どこまでの役割を演じたかは別にして、ソーシャルメディアが重要な影響を与えたことが各所で報じられています。もちろんその主役はユーザーであるチュニジア国民なのですが、その裏でFacebook運営者の側でも重要な動きがあったとのこと。

実は抗議活動が活発化したタイミングと同時に、チュニジア国内のISPレベルで、Facebookユーザーのアカウント名とパスワードを抜こうという動きが始まったそうです。当然ながらその裏側にはチュニジア政府の存在が考えられるわけですが、これに気づいたFacebookのセキュリティ担当は、とりあえず政治的には中立の立場を維持したままでこの動きを「セキュリティ上の問題である」と認識。通常のハッキング行為の場合と同様に、純粋に技術的な対応を行うことで、(100%ではありませんでしたが)アカウントが乗っ取られることを防いだそうです。

とりあえず今回は「技術上の問題」として対応することで、結果的にチュニジア市民活動家の支援を行ったFacebookですが、例えばGoogleのように外国政府から政治的な動きを求められた場合はどうなるのでしょうか。あるいは逆に、活動家の側から支援を要請されたら。Facebookは取り急ぎ、NGOなどの市民団体/活動家からの訴えを受け付ける特別なプロセスの構築に着手したそうですが、いつかは政治的な立場を明らかにすることを迫られる機会が訪れることでしょう。

記事の最後は、こんな印象的な文章で締められています:

More generally, though, Facebook certainly don't seem to be under any obligations to provide special treatment. But if Facebook really is becoming the public sphere -- and wants to remain central to people's real sociopolitically embedded lives -- maybe they're going to have to think beyond the situational technical fix. Facebook needs to own its position as a part of The Way the World Works and provide protections for political speech and actors.

Because the protests and overthrow of Ben Ali were just the beginning of this story. Hopes are high, but as we've seen so many times in the global south, the exit of one corrupt dictator usually means the entrance of another. To avoid that fate, politically active Tunisians will be using all of the tools at their disposal, including and maybe especially, Facebook. In fact, Rim said, it's already being used to debate how to create a new government and a better Tunisia.

より一般的な話をすれば、Facebook側には特別な措置を行う義務はないだろう。しかしFacebookは公共的な空間になりつつある。そして人々が社会的・政治的活動を行う中心的存在であろうとしている。恐らく彼らは、単なる技術的対応以上の行動を取る必要があるだろう。Facebookは現実世界の動きを構成する一部となり、政治的発言や行動を守るように行動しなければならないのだ。

ベンアリ政権への抗議とその崩壊は始まったばかりである。希望を抱くのは良いが、腐敗した独裁者が退場した後に、新たな独裁者が登場する様子を私たちは何度も目にしてきた。そんな運命を避けるため、政治的活動を行うチュニジア人は、使える道具はすべて使うことだろう(特にFacebookを)。事実Rim(※記事中に登場するチュニジア出身のコンサルタント)は、新たな政府とより良いチュニジアをつくるための議論をFacebook上で始めていると語った。

チュニジア型の「ソーシャルメディア革命」(あえてこう書きますが)については、他の北アフリカ諸国にも波及することが予想されています。FacebookだけでなくTwitterやYouTubeなど、他の主要ソーシャルメディアについても、公共財としての役割と責任が問われる事態が今後頻発するかもしれません。

また逆に、今回Facebookへのアクセスを妨害しようという動きがあったことからも分かるように、強権的な政権の側でもソーシャルメディアの対策に力を入れてくることが考えられるのではないでしょうか。事実、チュニジア新政権はベンアリ政権に批判的な議論を展開してきたブロガーであるSlim Amamouを入閣させるなど、ネット世論への対応を行っています。とすれば、これまで以上にソーシャルメディア運営者の側が自らの重要性を認識し、積極的に政治的な行動を取ることが求められるようになるという可能性もあるのではないでしょうか。

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< 追記 >

今朝のニュースですが、Facebookがいよいよ仮想通貨プラットフォーム"Facebook Credits"の普及に本腰を入れ始めたことが報じられています:

Facebook、ゲームデベロッパーに独自仮想通貨Facebook Creditsの利用を義務付けへ (TechCrunch Japan)

今回はゲームのみですが、「将来はすべてのFacebookアプリに適用することを計画している」とのこと。ますます公共財としての責任が求められる事態になりそうです。

【○年前の今日の記事】

IKEA が家具販売をやめる日 (2008年1月25日)
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