チュニジアの「ジャスミン革命」は「ソーシャルメディア革命」と呼べるのか?
昨日も取り上げた、チュニジアの独裁政権崩壊。ネット上では「ジャスミン革命」と呼ばれるようになっているようです:
■ 【チュニジア政権崩壊】政変は「ジャスミン革命」 ネットで命名 (MSN産経ニュース)
民衆蜂起により23年間続いた強権的なベンアリ政権が崩壊したチュニジアの政変が、インターネット上で「ジャスミン革命」と呼ばれ始めた。ジャスミンはチュニジアを代表する花。
呼称が定着するかどうかは不明だが、今回の政変ではツイッターやユーチューブ、フェースブックといったネットメディアがデモ動員に大きな役割を果たしたことが特徴だ。
引用箇所でも解説されている通り、また昨日の記事でもテーマにした通り、今回の「革命」には各種ソーシャルメディアやリアルタイムウェブが重要な役割を果たしたと言われています。そんな理由から、ジャスミンならぬ「Twitter革命」「Facebook革命」などという呼び名も聞かれるようになってきました。
Internet World Statsのデータによれば、チュニジア国内のネットユーザーは約360万人で、人口全体の34%にあたります。Facebookユーザー数は約160万人で、人口比ではおよそ16%。各種メディアでもだいたい同じ数値が紹介されているようですね。いずれにしても、ネットやソーシャルメディアが影響力を発揮したとしても驚きではないでしょう。
その一方で、昨日の記事とは矛盾するような内容になるかもしれませんが、「本当にTwitter/Facebook革命と呼べるのか?」という声も出てきました。例えば:
■ Was What Happened in Tunisia a Twitter Revolution? (GigaOM)
The reality is that Twitter is an information-distribution network, not that different from the telephone or email or text messaging, except that it is real-time and massively distributed — in the sense that a message posted by a Tunisian blogger can be re-published thousands of times and transmitted halfway around the world in the blink of an eye. That is a very powerful thing, in part because the more rapidly the news is distributed, the more it can create a sense of momentum, helping a revolution to “go viral,” as marketing types like to say. Tufekci noted that Twitter can “strengthen communities prior to unrest by allowing a parallel public(ish) sphere that is harder to censor.”
So was what happened in Tunisia a Twitter revolution? Not any more than what happened in Poland in 1989 was a telephone revolution. But the reality of modern media is that Twitter and Facebook and other social-media tools can be incredibly useful for spreading the news about revolutions — because it gives everyone a voice, as founder Ev Williams has pointed out — and that can help them expand and ultimately achieve some kind of effect. Whether that means the world will see more revolutions, or simply revolutions that happen more quickly or are better reported, remains to be seen.
現実はこうだ。Twitterは情報配信ネットワークであり、電話やメール、テキストメッセージなどと大差はない。しかしリアルタイムに無数の人々に情報が届けられるという点は別だ。チュニジア人ブロガーが投稿したメッセージは、何千回とリツイートされ、地球の反対側まで一瞬のうちに到達する。これは非常に強力な力となり得るだろう。なぜならば、ニュースが速く伝えられるようになればなるほど「勢い」が感じられるようになり、マーケティング系の人々が好きな言い回しで言えば、革命が「あっという間に広がる」ようになるからだ。Tufekci(Zeynep Tufekci、メリーランド大学の社会学者)は、Twitterは「検閲されにくい、新たな公共(的)空間をつくり出すことで、混乱に先立ってコミュニティをより強固なものにすることができる」とツイートしている。
それでは、チュニジアで起きたことはTwitter革命だったのだろうか?答えはノーだろう(1989年にポーランドで起きたことを「電話革命」と呼ぶだろうか?)。ただTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアツールは、革命に関するニュースを広めることにおいては非常に役立つという点は事実だ。なぜならばTwitterの創業者、Ev Williamsが指摘したように、ソーシャルメディアは人々に声を上げる手段を与えるからである。そして人々が手を広げ、最終的に何らかのゴールを達成することを手助けする。それが何を意味するのか――今後より多くの革命を目にすることとなるのか、それとも単に革命のスピードが速まり、情報が外部へ伝わりやすくなるだけなのか――それはまだ分からない。
これは「ツールと原因を混同してはならない」という議論と言えるでしょうか。確かに今回、オンラインツールがあったおかげで、政府に対する抗議活動(これまでは弾圧されて終わりになってしまっていたもの)が組織化されるようになったことが指摘されています。だからといって、TwitterやFacebookが革命の「原因」をつくったわけではありません。それはあくまでも20年以上続いた独裁政権に対する不満や、直近に起きた焼身自殺事件への怒りなどでしょう。クレイ・シャーキーも著書『みんな集まれ!』の中で類似事例を分析した後、あくまでソーシャルメディアは状況を後押しするだけのツールであり、行動を生み出す原因は人々の側にあることを論じています。
■ Tunisia: Can We Please Stop Talking About 'Twitter Revolutions'? (Radio Free Europe/Radio Liberty)
First off, it looks like social media did have an important role to play here. An estimated 18 percent of Tunisia’s population is on Facebook and, left unblocked by the government, it was a place where many Tunisians shared updates pertaining to the protests. As Ethan Zuckerman has pointed out, the video-sharing sites Dailymotion and YouTube were also important. And with a paucity of on-the-ground media coverage, Twitter excelled as a medium in getting the message out, in driving mainstream media coverage, and in connecting activists on the ground with multipliers in the West.
Revolutions, of course, are notoriously slippery customers to evaluate. As Juan Cole writes, "Revolutions are always multiple revolutions happening simultaneously." It's difficult enough looking at revolutions from years ago and attributing relative importance to each of the many factors, let alone when people are still on the streets and chaos reigns. When you look at the complex mix of factors in Tunisia -- the economy, a frustrated over-educated, unemployed middle class, the trade unions, rampant censorship and government corruption, and, yes, social media -- establishing a single cause for the revolution, especially for something as marginal for most Tunisians as WikiLeaks, seems preposterous.
最初に、確かに今回のケースではソーシャルメディアが重要な役割を演じたように見える。チュニジア人のおよそ18%がFacebookユーザーと目されているが、政府からはブロックされておらず、多くのチュニジア人が抗議活動に関するアップデートをFacebook上で共有していた。Ethan Zuckermanが指摘したように、動画共有サイトのDailymotionやYouTubeも同様に重要だった。現地からの報道が不足している状況では、Twitterはメッセージを発信し、主要メディアの報道を促し、現地の活動家と西側の支持者を結びつける上で優れたメディアとなった。
ご存知の通り、革命を評価することは非常に難しい。Juan Coleが書いているように、「革命というものの中では、常にいくつかの革命が同時に発生しているのだ」。何年か経過した後であっても、革命を見直し、無数の要素がどの程度重要だったのかを評価することは非常に難しい。ましてやまだ通りに人々があふれ、混乱が支配しているような状況ではなおさらだ。チュニジアの中では、様々な要素――経済、知識層の不満、中流階級の失業、労働組合、検閲の蔓延、政府の腐敗、それからそう、ソーシャルメディア――が絡み合っている。その状況を見れば、たった1つの要素(特にウィキリークスのように、大部分のチュニジア人にとって些細なもの)を革命の原因と見なすことが、いかにばかげたことか分かるはずだ。
こちらは何か1つの要素で革命のすべてを語ることはできないという、改めてごく真っ当な指摘です。今回のケースでも、Wikileaksによる政府腐敗の暴露、青年の焼身自殺、そしてソーシャルメディアなど、象徴的な出来事がいくつか存在していますが、当然ながらそれらを切り離して考えることはできないでしょう。
しかし私たちの頭は、分かりやすい説明、そして自分が聞きたいと思っている説明を求めます。「私が日頃から重宝しているTwitterが、Facebookが、チュニジアで革命を起こした」――そう考えられればスッキリと満足できるでしょう。それを意識的に否定し、様々な角度から出来事を捉えること。それが私たちに求められていることだと、自戒の意味も込めて書いておきたいと思います。
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