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IKEA が家具販売をやめる日

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IKEA と言えばご存知の通り、スウェーデン発の家具販売店です。ところがその IKEA が、消費者による家具交換会のイベントを開催するとのこと:

IKEA organizes furniture swap (Springwise)

イベントの名前は husselmarktで、2月9日に IKEA アムステルダム店に一般の消費者250名を集めて行われるとのこと。彼らが各々家具(IKEA製でなくても可)を持ち寄ると共に、IKEA 自身も12,000ユーロに相当する量の家具を出品するそうです。"husselen"とはオランダ語で「シャッフル」を意味する言葉なのだとか(日本語の「ハッスル」の語源でもあるらしいですよ)。

ちなみに公式サイト(残念ながらすべてオランダ語)には「シャッフル」が体験できるツールが用意されています。こんな風に、お絵描きツールで自分の部屋を描いて家具を配置し……

husselen_1

ボタンを押すと、以下の通りランダムに家具を配置しなおしてくれます。と言っても精巧なアルゴリズムがあるわけではなくて、あくまでもメチャクチャに「シャッフル」しているだけのようですが……

husselen_3

で、模様替えしてみて「これはいらないな」と感じた家具があったら、どうぞ「husselmarkt」へ持ち込んで下さい、という趣旨だそうです。半ば冗談なツールですが、行動を起こすきっかけとなるかもしれません。

しかし家具販売で成功を収めている IKEA が、なぜ消費者による家具交換イベントを主催するのでしょうか。もちろんマーケティングの一環で、これを機会に IKEA に足を運んでもらうという狙いもあるでしょう。ただ、「IKEA とは(買うか交換するかを問わず)欲しい家具を見つけて手に入れる場所なのだ」と捉えれば、このようなイベントを本気で行う、つまり事業として成り立たせることを狙っているという可能性もあるのではないでしょうか。

ネット技術を使い、あるモノを欲しいと思っている人と、そのモノを手放したいと思っている人を簡単に結びつけることが可能となりました。また環境問題の深刻化に伴い、人々の間に「なるべくモノを捨てないで大切に使おう」という意識が浸透しつつあります。この状況を考えれば、家具の分野でも「将来的には消費者間での家具売買・交換が盛んに行われるようになり、新しい家具販売のシェアを奪う」ということが予想されるでしょう。そうなってから手を打つのではなく、既存事業とのカニバリズムを承知で、いまから実験的に家具交換イベントを開催しておく――そんな背景もあるのでは、と感じました。

もちろん IKEA が家具販売をやめてしまう、などということは当分起きないでしょうが、「家具を手に入れる場所」という意味が少しずつ変化していくのかもしれません。そういえば、昨日もご紹介した本『フリーペーパーの衝撃』では、「既存の新聞業界が『フリーペーパービジネス』を始めるのに最も近い位置にいる」状況でありながら、カニバリズムを恐れて二の足を踏んでいる様子が描かれていました。既存の事業を継続するリスクを認識しながら、新しいことに取り組めないでいるのですから、家具交換会を主催する IKEA よりも日本の新聞業界の方がよっぽど不思議、なのかもしれません。

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