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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

Less Focused, More Connected ~ 集中力を捨てよ、連帯力を選べ

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ここしばらく、著作に没頭していてすっかり読書がおろそかになってしまっていたのですが、個人的に大好きな Nicholas Carr の新作”The Shallows: What the Internet Is Doing to Our Brains”と、Clay Shirky の新作"Cognitive Surplus: Creativity and Generosity in a Connected Age"が発売になっていて、読まなきゃなぁと追い詰められている日々です。

と思ったら、こちらも個人的に大好きな Steven Johnson が、New York Times 上で両作品をネタにした記事を書いていました:

Yes, People Still Read, but Now It’s Social (New York Times)

どうやら Nicholas Carr の新作は、過去に The Atlantic 誌に掲載されて物議を醸した”Is Google Making Us Stupid?”をベースにしたもののようです。ハイパーリンク、マルチタスクが当然のワークスタイルになった現代では、物事をじっくり考える時間が失われ、人々の知性が失われてしまうのではないか――ざっとまとめればこんな主張でしょうか。確かにひっきりなしに新着メールのお知らせが来るような状況では、落ち着いて何かを考えることはできません。集中力はぶつ切りにされ、細かいタスクを次々と切り替えながら働くことになってしまいます。

それに対して Clay Shirky の方は、こちらも既に公開されている「ジン、テレビ、社会的余剰」がベースになっているようです。生産性の向上によって生まれた余剰時間を、過去の人々はジンやテレビ番組の「消費」に当てていたのが、いま情報技術の発展によって「生産」に当てることが可能になっている(そして人々は実際に生産を始めている)というのがおおまかな内容でしょうか。Shirky の主張は直接 Carr に当てられたものではないですが、仮にこの主張に基づいて彼に反論したとすると、「ハイパーリンクでマルチタスクになることによって生まれる価値もあるのだから良いじゃないか」といったところになるでしょう。自分で調べたら数日かかる問題が、IMやツイッターで質問を投げたら数分でレスが返ってきた、という経験をしたことがある方は少なくないはずです。

Johnson が上記の記事で主張しているのもまさにその部分で、「マルチタスク化によって生産性が落ちるという面は確かにあるかもしれない」としつつも、「メールやツイッター、ブログ等は、電話や対面コミュニケーションだけの時代には考えられないほどの情報をもたらしてくれる」と指摘しています。また重要なのは次の部分:

Yes, we are a little less focused, thanks to the electric stimulus of the screen. Yes, we are reading slightly fewer long-form narratives and arguments than we did 50 years ago, though the Kindle and the iPad may well change that. Those are costs, to be sure. But what of the other side of the ledger? We are reading more text, writing far more often, than we were in the heyday of television.

And the speed with which we can follow the trail of an idea, or discover new perspectives on a problem, has increased by several orders of magnitude. We are marginally less focused, and exponentially more connected. That’s a bargain all of us should be happy to make.

その通り。画面上にデジタルな邪魔者が出現することで、私たちの集中力は失われていまう。50年前の人々と比べれば、長い物語や議論を読むことが減っているというのも事実だろう(キンドルやiPadはそれに挑戦するだろうが)。こうした状況は確かに「コスト」なのだが、それを支払うことで得られるものもあるのではないだろうか?テレビ全盛の時代に比べれば、私たちはより多くの文章を読んでいるし、より多くの文章を書いている。

さらに先人達のアイデアを辿ったり、問題に新たな視点を見出したりするスピードは、桁違いに速くなっている。私たちは以前よりもちょっとばかり集中力を失うかもしれないが、はるかに連携できるようになる。喜んでこの取引に応じても良いのではないだろうか。

長い時間をかけて何かに集中する、没頭するということの価値も確かにあるでしょう。しかしジャマされるリスクを取ることによって生まれてくる「他者との連携」という価値もあるはず。要はそれを認識し、状況によって上手く使い分けることが、これからの仕事には求められてくるのかもしれません。

いや、それは僕らのような古い人々の考え方で、デジタルネイティブな若者たちの間では”Less Focused, More Connected”なワークスタイルが標準になる可能性も多いにあるでしょう。僕自身、そんな世界のスピードについていける自信はないのですが、せめて頭の柔らかさだけは保っておきたいものです。

The Shallows: What the Internet Is Doing to Our Brains The Shallows: What the Internet Is Doing to Our Brains
Nicholas Carr

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ちなみに Steven Johnson ですが、次回作は”Where Good Ideas Come From: The Natural History of Innovation”というタイトルになるとのこと。今回の New York Times 記事で主張した内容も確実に含まれてきそうで、こちらも楽しみです。

さらに余談ですが、Nicholas Carr、Clay Shirky、そして Steven Johnson それぞれの著作について以前書いた記事はこの辺です。よろしければどうぞ:

「インターネット脳」が次世代リーダーの条件に?
"Amazon S3"という発電所の停止
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【書評】Twitter革命を理解するための一冊"Here Comes Everybody" 
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