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"Amazon S3"という発電所の停止

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日本語のメディアではあまり報道がないのですが、Amazon.com のデベロッパー向けストレージサービス「Amazon Simple Storage Service (Amazon S3)」(ITmedia での紹介記事)が一時的にダウンしたようです:

Crash: Amazon's S3 utility goes down (Rough Type)

おなじみ Nick Carr 氏のブログ"Rough Type"の記事。Nick Carr と言えば"The Big Switch: Rewriting the World, From Edison to Google"を出版されたばかりですが、同書はユーティリティ・コンピューティングが一般化した状況、つまり(まるで今日の電力のように)ネットを通じて情報処理能力を好きな時に・好きなだけ手に入れられるようになった世界を描いたもので、ちょうど Amazon S3 のダウンはタイムリーな事件だったのでしょう。

ダウンは米国東部標準時間の15日午前7時30分頃に発生し、10時17分に復旧宣言が出たとのことで、Twitter など S3 を利用していたWEBサービス等に影響が出たそうです(Twitter は画像データ保管用に利用しているのだとか)。ちなみに"outage"という単語を辞書で引くと、

〔電力・水道・ガスなどの〕供給停止{きょうきゅう ていし}
〔停電による機器などの〕機能{きのう}停止

とあります。この辺も、情報処理力を電力に例えた表現なわけですね。

また以下の Register の記事には、今回の件に対するユーザーの反応が掲載されています。ITベンチャーだけでなく、New York Times といった大手企業も既に S3 を利用しているそうです:

Web startups crumble under Amazon S3 outage (Register)

Nick Carr の表現を借りれば、いまは操業に必要な電力(=情報処理能力)を自社でまかなっている企業と、発電所からの送電に頼っている企業が混在している状態。今回の一件で、一部の大企業は「それ見たことか」と古いモデルに固執するようになる可能性があると思います。しかし逆説的なようですが、こういった事故が起きることで提供者・利用者の両サイドに経験値が蓄積されていき、より信頼性の高いシステムなり、利用法なりが生まれていくのではないでしょうか(Nick Carr や Register の記事でも、問題発生時のレポート体制が改善すべき点として挙げられています)。この一件が落ち着いた後、大企業がすべきことは逆にユーティリティ・コンピューティングを真剣に検討することかもしれません。

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