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Twitter は医者と患者を救えるか?

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多くの場合、オンラインコミュニケーションはカジュアルなものです。しかし災害時や政治活動など、シリアスな状況でも威力を発揮することが証明されてきました。そしていま「医者と患者」という、ある意味で最も難しい部類のコミュニケーションにおいても、ソーシャルテクノロジーの活用が始まっているようです:

Medicine in the Age of Twitter (New York Times)

昨日も「YouTube に出産ビデオがアップされ、貴重な情報が伝わるようになっている」という現象について書きましたが、ある意味でそれを補完するような記事です。出産ビデオが象徴しているように、ネットを使って患者同士が情報共有するということはこれまでも行われてきました。特定の病気で苦しむ患者さんたちがコミュニティをつくったり、ブログで情報発信したりという動きも珍しいものではなくなってきています。しかし時にそれは、不正確で悪い影響を及ぼす情報を伝えてしまいかねません(出産を控えたカップルを安心させるはずのビデオが、逆に不安を与えてしまったり)。そこに医師が参加すれば、専門知識に基づいたサポートができるのではないでしょうか?

病院ホームページや専門家サイトのように、医師が病気に関する情報を(WEB1.0的に)一方的な形で情報発信するというのは既に行われています。ではWEB2.0型ツールの利用状況はどうか。上記の記事ではこんな例が紹介されています:

  • ブログでの情報発信(これは日本でも最近増えていますね)
  • SNSでの情報発信
  • Twitter でのコミュニケーション(米国では病院も Twitter しているというのは以前もご紹介しましたが、医師個人で Twitter されている方も多いようです)
  • メール、インスタントメッセージ、ビデオチャットを駆使した患者のケア

などなど、当然ですがあらゆるコミュニケーションツールが活用されているようです。一方でこんな懸念も:

  • Twitter などオープンな場で会話してしまうと、患者のプライバシーが損なわれてしまうのではないか?
  • 医療現場で働く人々はただでさえ忙しい。ネットで患者に対応するなど、新たな負担を増やすだけではないか?
  • 医師は効果のはっきりしない新しいテクノロジーを導入するのに消極的。メールですら活用していない医師が多い状況で、ソーシャルテクノロジーがどこまで一般的になるのか?
  • 医師がネットを通じて診察行為を行うことは許されるのか?仮にネット上での患者の異変に医師が気づかなかった場合、医師に責任は発生するのか?

特に最後の点は重要でしょう。例えば医者と患者が Twitter 上でフォローしあう関係だったとして、患者が「何か苦しい」とつぶやいたとしたら?医者がオンライン状態で、その時間に Twitter に向かっていたにもかかわらず、その発言を見逃していたら?患者の発言が、@付きで医師個人に向けられたものだとしたら?患者の立場からすればきちんと対応して欲しいと思いますが、見逃したことで医者が責任に問われるようなことになれば、オフラインになって身を守ろうという医者が増えてしまうでしょう。逆にプライバシーは患者にとって大きな問題であり、こうした課題がクリアされていかなければ、オンラインでの医者/患者間コミュニケーションは進んでいかないと思います。

Social media platforms can turn 10- or 20-minute doctor’s visits into an ongoing dialogue, where sources of information and, potentially, support are continually available to the patient and the doctor. “Platforms like Twitter can be powerful if doctors are a lot more active in disseminating their expertise,” Dr. Khozin said. “Patients are being bombarded with information online, but I don’t think all that information necessarily empowers them. You also need expertise.”

ソーシャルメディア・プラットフォームは、10~20分程度の医師による訪問診察を、継続的な診察へと変える可能性がある。そこでは常に情報が参照できて、サポートも得られる。「医師が自分たちの専門知識を伝えることにもっと積極的になれば、Twitter のようなプラットフォームは非常に有効なものとなるだろう」と、医師の Khozin 氏は述べている。「患者はオンライン上で情報洪水に流されてしまっている。そういった情報の全てが患者にとって有益だとは思わない。専門知識も必要だ。」

患者同士が助け合うだけでなく、そこに専門家が参加して適切なサポートを行うようなコミュニティ。様々な問題があるのは事実としても、そういった協力関係が望ましいことには変わりありません。例えば(もう実施されているのかもしれませんが)医大にソーシャルテクノロジーについての知識や、その活用ノウハウを教えるような授業を設置するなどして、医師の側がテクノロジーに精通するようサポートしていかなければならないのではないでしょうか。またサービスを提供する側は、医師と患者が使いやすいプラットフォームを設計したり、そこでの成果を積極的にPRしたりといった活動を行っていって欲しいと思います。

「かかりつけのお医者さん」のような感覚で、Twitter でちょっとした健康に関する不安を相談できる。あるいは病気から回復した後もフォローしていてくれて、経過を報告できる。そこに他の医師や患者も加わって、様々なアドバイスを共有できる。それにほ法律とテクノロジー、そして文化など多くの面で変化が必要だと思いますが、こんな未来がいつか来るような気がします。

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