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IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

プログラマの心理に迫る『プログラミングの心理学』(G.M.ワインバーグ著)

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「読書の秋」ということで、何回かに分けて書籍を紹介しよう。なお、本稿は2011年8月8日と15日に、Web媒体「Computer World」に掲載したものを基に、若干の修正を加えたものである。

ワインバーグといえば「ライト、ついてますか」「コンサルタントの秘密」などの著者として有名である。

特に「ライト、ついてますか」で主張される「問題は解決する前に発見(定義)しろ」という教えにはいたく感動したものである。誰でも、問題に直面したとき、その問題を掘り下げるのではなく、(表面的な)問題を解決してしまおうとうして、さらに大きな問題を引き起こす。

「プログラミングの心理学」は、1998年に25周年記念版(英語ではSilver Anniversary Edition、つまり銀婚式版)が出版されたが(日本語版は2005年)、初版は1971年である。当然、本書に収められているエピソードの多くは1960年代のものである。しかし、本質的な内容は決して古くなっていない。

私が最も印象に残ったエピソードは、女性にまつわるエピソードだ。手元に書籍がない(部屋が乱雑すぎて、どこにしまったか分からない)ので正確な引用では無いことをお許し願いたい。

プロジェクトマネージャが、深夜まで残業していたところ、守衛さんが声をかけた。

「何しているんですか」

「仕事です」

「女性がこんな遅くまで仕事してはいけないでしょう」

「でも仕事が残っているので」

「マネージャは知っているんですか、ボスは誰ですか」

「私がマネージャです」

ここで守衛さんは混乱してしまうという話だ。

当時の米国は女性人権運動が始まったばかりで、女性が男性と同じように働くことは珍しかった。もちろん女性マネージャなど皆無に近い。もっとも、日本なら今もありそうな話ではある。

その他に「ソースコード公開を恥ずかしがるのはなぜか」「バグを隠したがるのはなぜか」等、プログラミングを中心にITエンジニアの心理が描かれる。本書で提案された「エゴレスプログラミング(自我を捨てるプログラミング)」は、XP(エクストリームプログラミング)の「ペアプログラミング」に通じるものがある。ITエンジニアの他、ITマネージャにもお勧めする。

2011年8月時点では、本書は版元品切れで新刊を入手できなかった。しかし、「復刊ドットコム」の働きかけで、日経BPマーケティングから復刊が決定した。幸い、現在でも入手可能なようである。

それにしても、2005年に出版された書籍が、2011年にはもう入手できなかったというのは、日本の出版事情はどうなっているのだろう。ユニコードを「文化的冒涜だ」と叫ぶより、書籍文化の衰退を食い止める方法を考えた方が良いのではないだろうか。


プログラミングの心理学 25周年記念版

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▲最近の様子。相変わらず乱雑で、何がどこにあるか分からない。

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