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IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

システム管理者が眠った日

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縁あって「ひとひら」というお芝居を観てきた。マンガが原作で、2007年にはアニメも作られたそうだ。

ストーリーは、青春ものの王道である。

  1. 対立する演劇部と演劇研究会
  2. 演劇部と演劇研究会の部長の確執
  3. 劣勢な演劇研究会の巻き返し
  4. エンディング

ちょっと違うのは、劣勢な演劇研究会が結局のところ負けてしまう点だが、いいエンディングには違いなかったので、興味のある方はコミックをどうぞ。

本作は、演劇部の部長「榊美麗」と、演劇研究会の部長「一ノ瀬野乃」、そこに極度のあがり症である主人公の「麻井麦(あさいむぎ)」が絡みながら進行する(「ひとひら」シリーズ全体の主人公は麻井麦)。

スポ根ものだと、当初の対立が試合や練習を通して融和するパターンが多い。「巨人の星」の星飛雄馬と伴宙太、「アタックNo.1」の鮎原こずえと早川みどり、「サインはV」の浅丘ユミとジュン・サンダースなど、数えればきりがない(たとえが古いのは容赦して欲しい)。

一方、榊美麗と一ノ瀬野乃は、お互いに相手のことを認め合っているのに、ちょっとした行き違いで対立を深めてしまう。しかし、本心ではお互いに相手のことを思っている。「そんなんだから友だちもできないのよ」と榊美麗に言われた一ノ瀬野乃が「友だちくらいいる、榊美麗」と発言するシーンは心を動かす(本公演は7月6日(日)で終了し、アニメも7年前の作品だから、これくらい書いてもいいだろう)。

観劇後の飲み会で

高校生くらいだと、こういう意地の張り合いもあるかもしれないが、私くらいの年齢になるとそうも言っていられない。
意地を張っているうちに相手が死んでしまうかもしれないからだ。

そう言ったら、場が沈んでしまった。ここは笑うところである。たぶん、NT-Committee 2の代表だった柳原秀基さんなら笑ってくれたと思う。

マイクロソフトのサーバー向けOSである「Windows NT 3.1」が登場したのが1993年、日本語版は1994年である。当初は実験的に使われるに留まっていたが、Windows NT 3.5でTCP/IPの性能が大幅に向上、Windows NT 3.51でWindows 95とのアプリケーション互換を実現し、1996年のWindows NT 4.0では多くの企業に採用された。

こうした中、1995年に生まれたのが「NT-Committee」である。その後、団体としての性格を強めたJWNTUG(Japan Windows NT Users Group)と、コミュニティ色を強めたNT-Committee2に分離する。私が柳原さんと知り合ったのはこの頃である。

JWNTUGは、マイクロソフトと対等に発言できる団体を目指したため、NPOとしての組織体制を重視した。これはこれで意義のあることだと思うが、スポンサー集めの仕事が増えてしまったことと、中心メンバーの脱退により結局は消滅することになる。

一方のNT-Committee2は、組織としての体裁が非常にあいまいで、メンバーも公募されていない。ただし、主な活動である勉強会については自由参加が徹底されており、決して排他的な場所ではない。私は講師としても受講者としても参加しているが、新参者が肩身の狭い思いをすることはなかった。Webを見ると、2009年頃まで勉強会が行われているし、現在も解散したわけではないようだ(と思う)。これだけ長期間の活動が理由のひとつは、柳原さんがいたからに違いない。

柳原さんは、人当たりのいい方で、あまり怒っているのを見たことがない。本当は怒っていたのかもしれないが、口にするのは指導であったり注意だったり、たまに愚痴だったりして、怒っているようには見えなかった。年齢的なものかと思ったが、そうでもないようだ。私の年齢は、最初にお会いしたときの柳原さんをずっと上回ったが、柳原さんにはまったく及ばない。

その柳原さんが先日急逝された。本当に急な話で全く実感がわかない。仕事の都合で告別式にも参列できなかったのでなおさらである。行きつけの沖縄料理屋さんに連れて行ってもらう話をしていたが、それもかなわない。柳原さんが関西在住で、私が東京にいることもあり、先延ばしにしていたことが悔やまれる。

コミュニティ主導のNT-Committee2を立ち上げられた方なので、残された者は柳原さんが縁で結ばれた関係を維持し、広げ、コミュニティ活動に力を入れることが何よりの供養だと思う。基本的に、「勉強会」の類はスケジュールさえ合えばお引き受けしているので、企画があればぜひ声をかけて欲しい。

柳原さんが「月刊Windows Server World」に連載していた「システム管理者の眠れない夜」をまとめた書籍は、現在技術評論社から入手できる。技術的には少し古くなっているが、そこにあるストーリーは(残念ながら)ほとんど変わらない。今読んでも面白いはずだ。

念のために断っておくが、私と柳原さんは、榊美麗と一ノ瀬野乃の関係と違い、何の確執もないし、張り合ってもいない。活動分野が若干違ったせいもあるが、柳原さんとしゃべっていると、張り合うよりも一緒に仕事をしたい気持ちの方が強くなったからだ(なお「ひとひら」の感想の続きは、個人ブログ「ヨコヤマ企画(分室)」に書いたので、そっちに興味のある方はぜひどうぞ(舞台「ひとひら」を見てきました)。

ただし、1つだけ自慢できることがある(やっぱり張り合ってたのか?)。「システム管理者の眠れない夜」の掲載誌「Windows Server World」の目次には「システム管理者の眠れない夜」が「連載」となっていて、かなり遅れて始まった私のコラム「IT嫌いはまだ早い」がいつの頃からか「人気連載」となっていたことだ。

もっとも、「システム管理者の眠れない夜」は書籍化され、「IT嫌いはまだ早い」は何もなかったので結局の所、本当に人気のあったのは柳原さんの連載であるから、私の負けである(「IT嫌いはまだ早い」の元原稿は@ITのエンジニアライフ「Go, Go, Go, in Peace」に掲載されているので、よかったらこちらも目を通して欲しい)。

いずれにしても柳原さんなら、単なる連載であろうと、人気連載であろうと、笑い飛ばしていたと思う。そういう懐の深い人だった。

システム管理者の眠れない夜」の最後はいつも同じ言葉で終わっていた。故人を偲ぶとともに敬意を表して同じ言葉で終わることにしよう。

合掌

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