食中毒のリスクを恐れずフグに挑戦したご先祖様に感謝
情報漏洩というリスクがあります。PCの盗難という脆弱性によって機密情報が漏洩するという脅威が引き起こさるケースを考えてみますと、まずPCを使うのをやめます。そして機密情報はすべて口伝とし、社員の家族は離島に軟禁して人質にします。そうしたら情報漏洩のリスクは宝くじ一等前後賞にあたるよりも下げられることでしょう。
しかしそんなことは現実的ではないですよね。そのような極端な情報管理を行えば会社は生きていけません。とはいえまったくのノーガードではリスクが顕在化した際に手痛いダメージを受けてしまいます。
会社同士の成長競争は、ともすると加熱しがちでリスクを軽視する方向に向かってしまうことがあります。「たまたま」リスクが顕在化していない時期が長く続くことがあったら、まじめにリスク管理に体力を費やしている会社よりもリスク覚悟で突っ走る会社のほうが成長できるからです。
ですので指導や懲罰の権限を有する行政や団体が何らかの規制を行っていくことは業界にとっては有意義であることだと思います。一方でそうした規制を真っ向から受け止めてバカ正直なほどにオーバースペックな管理体制を築くことはまた正しいやり方とは思いません。なぜ規制が必要なのかという原点を見つめつつ業務を効率的に進める方法を模索していくことが重要であると考えます。
私は大学の頃には生肉を食べることが大好きだったのですが、社会人になってしばらくした頃に「日本国内に生の肉は公式にはほぼ流通していない」という今まさしく言われているようなことを教えてもらう機会がありました。それ以来、馬刺し以外の生肉は食べていません。
ユッケ食中毒事件という残念な事件が発生しました。亡くなった方のご冥福をお祈りいたします。多くの消費者が「おいしい生肉」というご褒美をぶら下げられ、多くの焼肉店は「販売数の見込めるユッケ」というご褒美をぶら下げられ、その両者が出会って「安い肉」というリスクに突き進んでいくこととなりました。日本の食文化で生肉があまり表に出てこないのはおそらく長い時間をかけてそういったリスクをよく知っていたからではないかと思います。
しかしその一方でフグやキノコといった食品をおいしく安全に食べられるのは先人たちが果敢にリスクに挑んできた恩恵でもあります。今、食中毒以外にも原発や情報漏えいなど、様々な分野で事故が起きています。事故はないほうがいいですが、起きてしまった事例は無駄にせずリスクコントロールのノウハウを「知恵」として後世に伝えていくことが重要ではないかと思います。