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企業ITの都市計画的デザイン ~ 晩夏の京都の街並みに学ぶ

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 「碁盤の目」といわれる南北と東西に直交する街路は、京都の街並みの一つの特徴です。794年の平安京遷都に際して、唐の長安をモデルにこのような区画整理が実施されました。移動がスムーズになるという軍事面のメリットや、整然とした区画になることで人口や誰がどこに住んでいるかを把握しやすいという管理面のメリットがあったそうです。そこに住む人が道に迷いづらいというメリットは、現代まで引き継がれています。これが1300年前の京都の都市計画です。

 さて、今回お話したいのは京都の話ではなくて、京都の街並みに学ぶ企業ITの都市計画的デザインの話です。"都市計画的デザイン"という言葉は、少し聞き慣れない言葉かもしれません。これは一つの類比なのですが、個々の情報システムを個々の建築物と見立てたとき、それらの集合体である企業全体を一つの都市と見立てることができます。京都のように1000年以上続く都市にはしっかりとした都市計画があったように、成長して持続する企業の情報システムにはしっかりとした全体像のデザイン ― いわゆるエンタープライズ・アーキテクチャーがあります。(※ちなみに今回の投稿は、私の前回の投稿の続きではありません。あちらの続きは、また別の機会に書かせてください。)

 ここで重要になるのは、企業内の情報システムの全体像を可視化することです。全体像さえ見えてくれば、都市計画的に優れたデザインを考えることができるからです。企業の情報システムの全体像を俯瞰的に可視化して眺めると、京都のように整然とした「碁盤の目」調のデザインになっている企業もあれば、複雑に緻密に入り組んだ「箱根細工」調になっている企業もあります。一概にどちらが良いというわけではないのですが、整然とした「碁盤の目」の方が、企業がビジネスを広げていくとき、もしくは新しい領域に挑戦していくときに、情報システムを対応させやすそうです。

 今回は全体像を可視化する手法の一つを紹介します。まず、企業内の事業(組織や取り扱い製品郡の単位)を縦軸に、営業とか仕入れとかといった業務機能を横軸に配置します。実際の縦軸や横軸に配置される項目は、企業によりさまざまです。そして、その表に対して、各事業が各業務機能おいて利用している情報システムを配置していきます。そうすると、次の図のようになります。

碁盤の目の情報システム.png

 さぁ、現状の全体像の地図が手に入ったのですから、ここから都市計画的デザイン ― ここでは区画整理を考えていくことになります。上図の例を見てみると、「碁盤の目」という感じではなさそうです。この企業のD事業に着目すると、この事業は使っている情報システムが多く、IT投資が多そうです。実際、企業内でこれからの活躍が期待されているのだと思います。このような成長株の事業対しては、成長を促進するようなデザインが必要です。また、D事業は、情報システムの使い方が入り組んでいます。仕入と在庫管理には情報システム①を使っているのに、販売には情報システム②を使っています。元々は販売にも情報システム①を使っていたのですが、新たな販売パターンのビジネスモデルを追求するために販売だけは新しい情報システムを作った経緯がありそうです。ただ、仕入・在庫管理と販売と営業で使っている情報システムが異なるので、現場としては不満があって、面倒さを感じているかもしれません。この図を見るだけでも、いろいろな区画整理が考えられます。

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 つまり、「まずは全体を俯瞰しよう」ということです。先の図のように企業の全体像を俯瞰的に可視化できると、そこから情報システムをどうしていくべきか?というアイデアや議論が自然に発生します。そういった企業内の様々な関係者の議論の結果として導かれるのが、企業ITの都市計画的デザインです。1000年以上続く京都がしっかりとした都市計画を持っていたように、持続的な成長を目指す企業の情報システムにもしっかりとした全体像のデザインを打ち出していきたいと、常々考えています。

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