新興国市場が生むイノベーション(その3)
前回は新興国市場のマーケティング領域について述べました。今回は同じマーケティング領域の流通チャネル網について述べます。
先進国と比較して新興国市場のチャネル網はあまり整備されていません。今までグローバルプレイヤーが参入してないことや地理的な要素から、そもそも慣習やルール自体が存在しないこともあります。市場の魅力度だけで参入すると、その後のチャネル網構築で思わぬ出費や手間がかかることもあります。
例えば中国では広大な地理的要因やかつての外資系企業の規制、および地域格差などによる地域性などから、複雑で多くの階層別チャネル網が地域毎に存在します。メーカーから1-3次卸商を通し小売にたどり着く、数多くの中間業者が存在する流通チャネルです。地域別に異なる中間業者が存在する中で、リベートや販促、マージン管理から教育など、適切なチャネル管理を行うことのは、大きな取引コストがかかります。
スピードを重視するならM&Aや提携戦略がお勧めです。仏化粧品ロレアルによる中国ローカルブランドである羽西や小護士の買収です。または仏食品ダノンのワハハとの提携もスピード重視の戦略といえます。
このような新興国市場特性を逆手にとったのがヤクルトです。ヤクルトレディーを活用した直接販売網をそのまま新興国市場で導入し成功しています。これは既存のチャネルが未整備で、かつ豊富な労働力がある新興国市場では効果的な選択肢です。ヤクルトレディーを採用すると同時に、乳酸菌がいかに健康に良いかを教えることで、通常だと広告・販促で実施されるような製品知識がヤクルトレディーを通して最終消費者へ正しく伝播されます。
その結果、ヤクルトレディーは乳酸菌の力を理解すると同時にヤクルトの消費者にもなり、高価格な販売も可能となります。ヤクルトの言葉を借りると”営業活動”ではなく普及活動だともいわれています。(日経ビジネス)現在は日本のヤクルトレディーが4万3千人(2007年)に対して海外では3万5千人以上いるとのこと。現在ヤクルトは中国市場の拡大に力をいれています。
かように新興国市場の流通チャネル網構築と管理とは、先進国市場の流通チャネルとは前提が異なります。次回は生産・人・組織領域について述べてみます。