【第1回】UX動画が、ブランドを向上させ、受注に直結する
■動画が世界をかけめぐる時代に
以前は動画というと、おおむねホームムービーを、家族で撮って、家族で楽しむことが定番だったが、YouTubeなどのSNSができたことにより、動画が急拡散するようになった。世界中のちょっとした生活シーンが広く共有され、笑いあり、涙あり、そして感動ありのプライベートムービーが手元にすぐ届くようになり、ある意味でインターネットから得られる情報をしのぐメディアになったと言える。画面が動き、音声が付き、最近は音楽まで流れる完成度の高い動画もSNS上に多数登場し、人々のハートをつかんでいる。簡単に動画を撮影できる動画サイト投稿用のカメラまで現れ、それで撮影された動画はプロフェッショナリティに富んでいて解像度も高く、数日で数千万クリックという怪物動画まで登場した。単にホームムービーの延長線上として子供やペットの動画で笑いをつかむレベルとは、一線を画しつつある。動画はまさに驚きや感動を一瞬にして手元に届けられる「UX(ユーザーエクスペリエンス)メディア」に変貌を遂げ、世界中のあらゆる動画が時を待たずして世界中の人々に届く、ユビキタス・ネットワーク社会となった。
■動画の意味や活用方法が変わる
「楽しい」「愛しい」「うれしい」から「役立つ」「分かりやすい」「ファンになる」までといった、商品・サービスへの理解度やブランド認知度の向上、ひいては事業に直結した導線を引き、受注獲得まで促すようになると、動画の価値は一層向上する。よくBtoC企業ではCMがWebサイト上に掲載されているが、それは単にそのCMを見損ねたお客さまが再放映を楽しむだけで、活用の域に達していないと思う。「興味を持ち」「深く知り」「納得して」「共感を抱く」、さらに進んで「ファンになる」までには長い道のりだが、その導線が引けていなければ、マーケティング上の意味は感じない。お客さまの経験価値、つまりUXも生まれない。
■活用の幅が広がるYouTube
当社では2013年度から動画マーケティングに取り組み、約200本の動画を作成した。一般公開用と限定公開用、いずれもYouTubeのプラットフォームを利用している。以前は当社のサーバー内にアップしていたが、OSやブラウザ、再生ツールなどさまざまな要因で再生できないケースも多々あり、動画マーケティングの際は取り組み当初からYouTubeを選択した。自社サーバーにこだわられている企業もあると思うが、再生されなければ何の価値も生まれない。それどころか、サイトからたどり着いた先で「再生できない動画」という壁にあたることは大きな経験価値の失墜となり、ブランド価値は低下する。その意味で、YouTubeプラットフォーム自体はいろいろなUXを実現している。以下の図で示すが、あらゆる訪問者に対して、基本的には動画が再生できるように対応しているためだ。
■即断即決ができる動画で勝負が決まる
動画をスムーズに再生できたとしても、次にお客さまの目的に合致しているかどうかがお客さまの経験に響き、経験価値は良くも悪くもなる。動画は特に、事前期待とその内容との整合性が重要だ。Webページの場合は、ページに仕込んだキーワードとの整合性が取れなくても、読者側も自分がそのページにたどりついた意味を深く解さずにコンテンツを読む。しかし動画の場合は、Webページに比較し期待値が高いため、期待値と内容のかい離があるとすぐ離脱されてしまう。そのためにも、動画ページに埋め込むキーワードはより慎重に選択する必要がある。BtoBユーザーの場合、ただでさえオフィス内で動画を見る行為は(あくまで現時点だが)日本文化と照らし合わせると、どうしても窮屈だ。だからこそ、短時間でお客さまのハートをつかむスピーディーな展開の動画が求められる。ITの導入が専門のIT部門に対して、短時間で商品やサービスを選択したいユーザー部門は、即断即決できる動画こそが、商品決定プロセスの中で良い経験もたらす。
交通費支払い代行サービス(46秒) Timetable and Route Search, "Hyperdia" (71秒)
Future Stage製造業向け生産・販売管理システム(46秒) 日立システムズ YouTubeブランドチャンネル(46秒)
■お客さまとのタッチポイントすべてで動画を生かす
これまでの章で何度か、「お客さまと企業とのタッチポイントのすべてで豊かな経験価値を提供することがUXの基本」だと述べてきた。詳しくいうと、「提案力」「商品力」「品質」、そのすべてで豊かな経験をお客さまに提供し、購入につなげ、その後も品質の高さで商品のとりこにして、ファンになっていただくこと。その先は、ソーシャルメディアで良い評価を発信いただく場合もあれば、事例としてWebサイトや動画で登場いただくこともあり、評判は拡散する。その結果、ブランド力やその価値も向上する。
再度「提案力」「商品力」「品質」について深堀りしてみると、「提案力」の部分では、動画の価値や経験に変化が表れてきた。
たとえば、以下のお客さまのご意見だ。
- 動画を見た。すぐ発注したいので、注文書を持参してほしい
- 提案コンペで動画を見て、信頼性を感じた
- (提案とは直接関係のない分野の事例動画をご覧になり)こんなに幅広いことをやっている企業なのだと再認識した
- 取引先企業の方が事例動画に登場していて、親近感を持った
- 先端モバイルシステムの事例動画を見て、自部署への導入を決めた
いずれも提案の段階で動画を見たお客さまからの声であり、受注に直結した。
■「商品力」の基本は「商品説明動画」のチカラ
さて、次のステップは「商品力」だ。テレビでBSチャンネルをつけると、特に平日の日中はテレビショッピングのチャンネルが大半を占めていて、いかにその市場が大きいかが分かる。それらテレビショッピングで視聴者側の共感を得る最大手段は、掛け合いだ。一方はその商品の素晴らしさを伝え、他方は視聴者側の代表としていくつかの質問を行い、共感を与えて購買意欲をあおる。非常に古典的だが、だからこそ成功率は高い。特に購入期限を設けると、お客さまには「今しかない!」という気持ちが起こり、巧妙に仕組まれた誘導に乗ってしまう。その販売力としての切れ味は鋭い。
■「アバター動画」で市場を席巻
翻って、BtoB企業ではテレビを独占する予算もないが、それ以前にユーザーはテレビの前にはいない。「ただテレビショッピングで行われていた「掛け合いでお客さまを購買に結び付ける」プロセスはBtoBでも同様ではないかと」いう仮説をもとに、当社では今年からテレビショッピングと同様の仕組みをパートナーと共同開発し、数年前から制作している「アバター動画」に導入した。効果は未知数だが、「アバター動画」はMicroSoft Power Pointにナレーションメモを加えればすぐ動画になるという優れもので、完成後に何らかの変更があっても、Power Pointを修正するだけで済む。実写動画と比較しコストも安く、それよりなにより時間が短縮でき、制作の負担は大幅に少ない。加えて14か国語まで言語を変更できるため、今後のグローバル提案にも期待が大きい。現在、社内の多くの部署が「アバター動画」を制作し、大きな効果を発揮している。
■「品質」は「導入事例動画」で伝わる
最後に「品質」をアピールする動画だが、お客さまの商品・サービス選定のご決断を促すのは、やはり「導入事例動画」だろう。これは、さすがに実写でないと迫力はない。またユーザーとの良好な関係が少なからず動画には出るので、そのシーンがまさに導入を予定するお客さまには共感を呼ぶ。商品やサービスそのものの「品質」を動画で表現するのは難しいが、だからこそお使いいただいているお客さまの声は、何物にも代えがたい。
広島電鉄様「HyperDia クラウド型ダイヤ作成システム」導入事例
島村楽器様「FutureStage 専門店向け本部店舗システム」導入事例
大津市議会様「議会ICT化プロジェクト」導入事例
横浜南共済病院様「スマホ活用による院内コミュニケーション」導入事例
■「社内取り組みの動画」まで作ってしまう
当社では本年から、「提案力」「商品力」「品質」のすべてを向上させる取り組みとして、社員がUXのスキルを競う「UXスキルコンペ」を社内で実施し、動画で発信している。単にUXの教育を行うだけから、UXの力を社内の関連各部門で競い合うという、日立グループはおろか日本国内でも珍しい試みで、この主催元は品質保証部門だ。まだ第1回の開催なのでその価値は分からないが、「UXスキルコンペ」の動画を通じてお客さまに対し豊かな経験価値を提供しようと、全社員が一丸となって取り組んでいる姿は少なくともご理解いただけるだろう。加えて、この動画は当社の社員全員に向けたインナーブランディングとしても活用でき、社員が得られる経験価値も向上すると思う。
「UXのトビラ」第3章の初回は、私自身が仮説として持っている「Webサイトにおける、テキストと動画との主客逆転が、5年以内に起こる!」、つまり「お客さまはまず動画を見て、興味の深堀りはテキストで読む閲覧スタイルに変化する!」ということを、UX観点から検証してみた。次回は今回と同様に動画に関わる部分もあるが、BtoB分野でのセミナー、イベント、キャンペーンに対するUXの仕込み方を考えてみたい。
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