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UX(ユーザーエクスペリエンス)を黎明期から追いかけ続けてきた筆者は、昨年度の成長期を経て、いよいよ今年度は成熟期に入ろうとするUXの姿を再び追いかけることにした。第2章の最後に「UXは概念や理念」であり「デザイン思考などの方法論でUXを実践することの必要性」を論じてきた。ただし、その孤高な理念を下敷きにしても、なかなか実際の業務に反映できない、もしくはその効果や価値が見えにくいとの話を、特に現場ではよく耳にする。そこで第3章では、UXの成熟期を見据え「より現場に即したUX」とは何か、もしくは「UXを通じて何が日頃の業務や事業全体に貢献するのか」といったことに焦点を絞り、言及してみたい。

【第8回】動画マーケティングの未来がUXで広がる

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・動画=テレビの時代

私が日立製作所に入社した30年以上前には、動画が映るテレビが既に生活の中に溶け込んでおり、そのデザインはバラエティに富んでいた。家具様式のものから小型のマイクロテレビまで、まさに多種多様で、デザイナーも市場ニーズを徹底的に探り、素材や色彩からユーザーインターフェイスまで、多角的にデザインに取り組んでいた。そこから映し出されるコンテンツは基本的には放送局から発信されるもので、映像が動くことにワクワクしながらも、私たちメーカー側と放送局側は全くの別世界だった。

・ホームムービーの登場

その後家庭用のカメラが普及し、ホームムービーが当たり前のようになり、テレビ放送の動画とともに手作りムービーも、お茶の間の一主役に躍り出た。私自身も子供が小さかった頃は、動画を本当にたくさん撮影したものである。特に子供が生まれてから小学校に上がる頃までは、一時米国に駐在していたということもあったが、編集までは手が届かなかったものの、動画がとても身近にあった。

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・液晶大画面テレビが家庭の主役

さて、それから一足飛びに話を現在に移すが、家電量販店のテレビ売り場の景色が一変した。40インチクラスのテレビが中心サイズのような印象で、50インチ、60インチが珍しくもなく、平然と売り場に並んでいる。そのサイズもさることながら、私がデザインしていた当時と決定的に違うのは奥行きだ。当時も液晶パネルは有ったが、大型サイズにするには多くの技術的な課題があった。しかし今は壁いっぱいに広がる大きさが実現されている。私のテレビデザイナー当時は、ブラウン管が収まるバックカバーまで含む全方位デザインで楽しんでいたが、技術進化によるテレビ画面のフラット化はデザインしろを狭くした。

テレビに映し出される動画コンテンツは、今後どうなって行くのだろうか。従来のハイビジョン画質が、横方向で素子が1920ピクセルのためほぼ2000ということで、2K。それに対して倍のピクセルを持つテレビを4K画質として、多くの国内メーカーはそれを売りにしてきているが、いずれ高画質化は進むとしても、コンテンツ提供側や放送局側の準備には、もう少し時間が必要な気がする。

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・真のインターネットテレビの登場

インターネット側は、個別進化が進むため、その準備は急速に進むことも考えられる。現実に4Kビデオカメラが、20万円を切る価格で市場に出回り始め、画質は放送用カメラと同レベルまで来ているとのコメントも見かけた。ネット上の配信では単にネットワークのパイプの太さだけが課題だ。その意味で、テレビハードの準備はできつつあるために、これまではインターネットテレビにはネットアクセスに課題があったが、今後はそのなめらかな実現が秒読みの段階に入った。

テレビのプロダクトデザインから社会人スタートした私にとって、テレビ好きなのはどうしても仕方なく、特に画像を取り巻く世界は気になって仕方が無い。家電量販店でも必ずテレビ売り場は覗くことにしている。現に、自宅でも日立以外に3社のテレビを見ていて、リモコンやGUI、ユーザーインターフェイス全般で各社の個性が出て、日々気づきも多い。

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・インターネットコンテンツの変遷

その技術進化に対して、コンテンツの進化はどう進んでいるのか。私は特にここ十年でインターネットの世界にどっぷり浸かったが、コンテンツの進化には目を見張るものがある。

1.企業を知る

2.商品を知る

3.商品を売る→商品を送る

4.サービスを売る→サービスを配信する

5.意見を掲示する(掲示板)

6.意見を投稿する→意見をシェアする(TwitterやFaceBookなど)

7.画像を投稿する→画像をシェアする(YouTubeやFaceBookなど)

特にSNS(ソーシャルメディア)の領域でのコンテンツ進化は止まるところを知らない。私たちデジタルマーケティングのメンバーは、主として上記2,3,4,7を中心に取り組んでいるが、特にBtoBマーケティングの最も効果的な手段として、YouTubeプラットフォームを利用した動画コンテンツを多いに活用している。

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・YouTubeの二つの公開方法

大別すると一般公開と限定公開の2つの手段で、お客さまへリーチしている。前者はYouTube公式ブランドチャンネルとして、公式サイトに掲載し、広く一般に公開すると同時にSEO対策を施し、セミナーやWebサイトへの誘導を行っている。一方限定公開は、そのURLを見込み客やパートナーに送りPR効果を期待したり、営業員がタブレット端末などでお客さま先に出向きプレゼンテーションをしたりということで、一般的な営業活動に利用している。用途によって使い分けているが、SNSの性格上、URLをクリックすれば限定公開とはいえ誰でもその動画を見ることが可能で、著作権などを含め知的所有権の取り扱いについては、一般公開と同様に配慮が必要なのは言うまでもない。

・動画の種類

次にその種類だが、私たちは以下の3カテゴリーに分類している。起点は、UX動画として、いかにお客さまに豊かな経験価値をお届けできるかをすべてにおいて優先している。

1.コンセプト動画:事業のコンセプトを表すもので、具体的には方向性やあるべき事業の未来を指し示したもので、主としてお客さまが事業に対して、興味や関心を持っていただくことが一義的、すなわち企業ブランディングとも言える。動画の表現手法としてはより高度な技術が求められ、先進的な価値を動画の中に込めなければ、その存在価値は無い。

2.商品説明動画:商品紹介動画とも呼ぶ。その商品のターゲットユーザーや性能/機能を説明するもので、テーマによっては操作説明的なものもある。こちらも目的により1分程度から10分以上のものまであり、前者はお問い合わせ獲得が目的でマーケティング要素が強いのに対し、後者はユーザー個別に説明に伺うことが難しいような場合に有効だ。

3.導入事例動画:既に商品を導入され、お使いいただいているお客さまの声を集めたもの。お客さま側から見ると、特に同業他社の意見や導入効果は共感を呼びやすく、マーケティング的にも最も重要なカテゴリーで、仮にお客さまが探している当該のサービス事例でなくても、企業そのものへの信頼性は高まるためブランド価値も向上する。

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・動画の表現手法

また、当社のビジュアライズ手法には現時点で大別し、以下の4つの手法を取り入れている。この面でもUXによるお客さまの経験価値増幅がテーマで可視化している。


a.実写:事例動画では、お客さま会社へ出向き、撮影したソースを編集し、同意を得ながら相互にプロフィットがシェアできるような動画に仕立てる。生身の人間の迫力は、より親近感や共感を産みやすい。一方で撮影時の天候などに左右されたり、お客さまとのより緊密な関係が求められ、コスト的にも高い。また、操作画面の実写による説明動画もこの手法に含まれる。


b.インフォグラフィックス:基本的にデスクトップ上でのグラフィック処理で作られるもので、より伝わりやすく可視化したものが多い。コンセプト表現に向いているが、商品説明にも多用されている。絵コンテでの精緻な詰めが要求されるが、一旦決まれば、コスト的にもリーズナブルで早く仕上がる。最もセンスが求められるタイプの動画とも言えよう。


c.マンガ動画:アニメーションのジャンル。当社のBtoBマーケティング的には、マンガとして静止画を起こしたものに対し、ズームや左右のパンに音声を吹き込み、動画に仕立てているが、それなりにアニメーションに近い効果が得られる。企業の中枢のポジションにマンガ世代が差し掛かっており、商品によっては効果が期待できる。


d.アバター動画:アバター自身は実写で、それをベースに動作を加え、より説明に現実感を与えたもので、専門企業と共同開発により実現した。当社の動画マーケティングの中では最もオリジナリティが高く、主として商品説明に登場しているが、動画メルマガなどでの活用も進んでいる。登場する全アバターが、当社の社員をモデルに構成されているところも、特徴的だ。

・動画マーケティングに取り組むには

動画マーケティングに足を踏み入れて一年あまり、当社では既に100本以上を制作し、その奥行きや幅も日々広がっている。しかし、これらの動画が瞬時に揃ったのでもなければ、湯水のように費用を投入したわけでも無い。今後動画マーケティングに参入を計画されている方々は、今後のトレンドから、以下のことを考え進められてはどうだろうか。

i.インターネットが動画ドリブンになるという世界の予見(鹿島の私見でもある)

ii.揺るがぬ動画マーケティングの方針(参考として当社では、「スピード感」「先進性」「信頼性」をテーマにし、いずれもUXをベースとして驚きや感動の折り込みをめざしている)。

iii.動画制作のための社内外情報共有を目的としたオリエンシートの準備

iv.上記2項目を速やかに実施するためのマニュアルやガイドラインの整備

v.予算の確保、無ければ予算獲得のための稟議書の準備

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・これからのインターネットの主役は動画

動画のKPI設定は現時点で難しいところもあるが、徐々に効果が出てきている。イベントや受注コンペでの動画の威力は特に期待されている。しかし、ROIすなわち投資対効果ばかりを議論していると、大局を見失う。以前のコラムでも述べているが、現在のインターネット上でコンテンツ比較するなら「見やすさ」「分かりやすさ」「伝わりやすさ」で、動画は群を抜いている。またネットワークの高速化やビッグデータハンドリングの容易さ、さらに所有から利用への社会変化は、クラウド利用を進展させ、そこでも動画の活用範囲が広がることに疑う余地は無い。

次回はUX活動推進のキーとなるエスノグラフィについて掘り下げて見たい。

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