【あと24時間】電子書籍の「電子書籍の衝撃」の衝撃
ちがごろTwitterで話題の佐々木俊尚著「電子書籍の衝撃」を読みました。出版元の株式会社ディスカバー・ティエンティワンのサイトで、明日14日正午までの限定で電子書籍版をキャンペーン価格110円で販売しています。私は4月15日発売の紙の本を待ちきれずに、電子書籍版を買ってみました。
副題に「本はいかに崩壊し、いかに復活するか?」とあります。著者自身、長年たくさんの本を読んで書いてきた人です。キンドルやiPad脅威論で終わることなく、本に対する深い思い入れと冷静な思考が込められた内容になっています。
グーグルやアマゾンによる書籍の電子化は、日本の出版業界にとって「出版文化を脅かす”黒船”」という見方があります。著者はこれをバッサリ一刀両断にします。
そもそもいまの出版業界自体がそういう「良い本」をきちんと作って販売できるような状況になっていません。
つまりは「良い本が読者に届けられる出版文化」という前提自体が、1980年代のニューアカデミズム・ブームのころを最後に崩壊してしまっていて、いまの出版業界はその残滓を食い尽くしながら、一方で生き残りのために自己啓発本をはじめとする一般に受ける本を量産しているにすぎないのです。
こういう自己啓発本中心の文化を「守るべきもの」と考えている人は、日本の出版人にはほとんどいないでしょう。だったらみんな、何を守ろうとしているのでしょうか?
このバッサリ感が気持ちいいです。
著者は電子化とセルフディストリビューションが先行した音楽業界を例にしながら、著者がセルフパブリッシング(自力出版)できるようになれば、出版社・編集者は、著者を360度マネージメントする役割に変わっていくとしています。
第一に、ソーシャルメディアを駆使して書き手が読者とダイレクトに接続する環境が生まれ、それによって書き手のいる空間が一つの「場」となっていくこと。
第二に、電子ブックによってパッケージとしての紙の本は意味を失い、コミュニティの中で本が読まれるようになっていくこと。
第三に、セルフパブリッシングの世界では大手出版社かどうかは意味がなくなり、中小出版社でもあるいはセルフパブリッシングする個人でも、購読空間の中で同じようにフラット化していくこと。
著者は、本というものは「人によって好みはさまざまで、少部数のものを多様なかたちで読者に送り届けるべき」と考えています。
そして読者が自分にとってよい本に巡り会う方法の一つが、ソーシャルメディアです。
つまりミシュランのプロの評価は、食べログに参加している人たちの集合知的評価とは著しく異なっていたということです。
(略)
この点について(食べログの)運用担当者はこう説明してくれました。
「食べログでは、自分と舌が似ているお気に入りのレビュアーを見つけることができれば、その人の評価の方がミシュランよりも自分にとっては正しいということになるのではないでしょうか」
著者は「自分にとって最も良き情報をもたらしてくれる人」をマイクロインフルエンサーと定義し、本についても、マスモデルに基づいた情報流路から、ソーシャルメディアが生み出すマイクロインフルエンサーによってリパッケージされるとしています。
実際、私がこの本のことを知ったのはTwitterのTLでした。自分がフォローしている人達が話題にしていたので、興味を持ったのです。
出版社は、前にも書いたようにスモールビジネス化されたエージェント的なビジネスへと舵を切っていくでしょう。
書店も決して無くなるわけではありません。往来堂書店のように「良い本と出会う空間」をきちんと構築できる店舗は、コミュニティの中心地となってみずからをソーシャルメディア化していくような方向へと進化していくでしょう。
そして書き手も、ソーシャルメディアの渦の中へとやがては歩みを進め、本と本を取り巻くメディア空間の中でいまとは異なる立ち位置を占めるようになっていくでしょう。
新書のボリュームがある電子書籍を、実際に購入して最後まで読んだのは、今回が初めてです。パソコンで読みました。意外に読みやすく、目が疲れることもありませんでした。私はほとんどの本は一度しか読みません。本棚に溜まっていく紙の本より、電子書籍の方が向いているかもしれません。
ただ、デスクトップパソコンは電子書籍を見るデバイスには適していないと痛感しました。キンドルやiPadのような板状のデバイスがいいと思います。
私はキンドルとiPadの現物を見たことがあります。本を読むならモノクロ電子ペーパーで軽いキンドルの方が、ツルツル液晶で重量のあるiPadよりも優れているように思われます。または、じっくり読む書籍はキンドル、カラーページのある雑誌はiPadでもいいかもしれません。いずれにしても、今後デバイスはさらに改善されていくでしょう。
今回はご紹介できませんでしたが、この本は他にも興味深い内容が多くあります。単なるハードウェアではなくiTunes並のサービス体系になっているキンドルの話や、1967年に山本夏彦が出した本ですでに問題とされている取次制度の歴史的経緯の話が、参考になりました。
「電子書籍の衝撃」は面白いですよ。
電子書籍の衝撃公式Twitterアカウント
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