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【書評】もったいない主義

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横並びは日本の国民性と言われます。人は基本的に変化を嫌うのだそうです。この二つが重なると、周りから浮かないようにおとなしくして新しいことは何もしないことが、習慣になってしまいます。

例えば、日頃お世話になっている人がいて、その人が近日中に誕生日を迎えるとします。そのことを、あなたや周りの人は知っています。さて、あなたはどうしますか。

何もしないままその日が過ぎてしまえば、いいことも悪いこともありません。何も起きなかったのですから、ただのゼロです。

では、本人に「おめでとう」の一言を言ってみたらどうでしょうか。コミュニケーションが発生して、自分の気持ちが相手に通じました。自分だけでなく、相手の日常にも小さな変化があったことになります。二人合わせての変化量は、プラス1くらいでしょうか。

さらに、周りの人に声をかけて、皆で祝うことにしたらどうでしょうか。「おめでとう」を言うだけでは面白くないので、本人には秘密でちょっとしたサプライズの仕掛けを用意します。多くの人の日常に変化が起きます。変化量はプラス10くらいでしょうか。サプライズの内容次第では、プラス100くらいのインパクトになるかもしれません。

どうせなら何か新しいことをした方がいいのではないかと、多くの人が日頃考えているのではないかと思います。何も起きないよりは、その方がずっと楽しそうです。しかし、現実にはこれがなかなか難しいのです。

上の例で考えます。実際にサプライズをやろうとすると、いろいろな心配が出てくるでしょう。本人に対しては、「この歳で誕生日を祝ってもらっても、全然うれしくないのではないか」が気になります。周りの人をどの範囲までお誘いするかも、悩むところです。関係する人すべてに連絡することは難しいです。誘われなかった人や誘われても参加しなかった人と、気まずい思いになるかもしれません。余計なことをするお節介な人と思われてしまう可能性もあります。

それだけでなく、サプライズの企画を考える時間や、準備をする時間が必要になります。企画の内容によっては、費用がかかります。自分が考えた企画が実はつまらないものかもしれないと心配になります。誰も乗ってこない結果になったら、へこんでしまいます。

あれこれ考えるうちに、「やっぱり何もしない方がいいや」になりそうです。何もしなければ、何も起きないのですから、悩みや心配もなく安全安心です。

「もったいない主義―不景気だからアイデアが湧いてくる! 」の著者である小山 薫堂氏は、今や米アカデミー賞の外国語映画賞を受賞した「おくりびと」の脚本家という肩書きで紹介されますが、もともと有名になったきっかけは、放送作家として手がけた深夜番組「カノッサの屈辱」でした。

企画を考えることが、小山氏の仕事です。実績は多岐にわたっています。この本に書かれているだけでも、大学で教えたり、日光のホテルや鉄道を盛り上げたり、首都高の交通事故を減らすキャンペーンに参画したり、たこ焼き屋を経営したりと、互いに無関係に思えるくらい幅が広いです。とにかく企画を考えるのが好きで、人に喜んでもらったり楽しんでもらったりするのがうれしいみたいです。

頼まれていないのに頭の中で勝手にプランを考える行為を、僕は「勝手にテコ入れ」と呼んでいます。これはアイデアを考える訓練としては最適で、僕はいつも目についたものを片っ端から「勝手にテコ入れ」しています。

「勝手にテコ入れ」も結局、考え方の土台にあるのは、「もったいない」という思いです。「あれ、いまのままじゃもったいないから、こうすればいいのに」と考えるからこそ、いろいろなアイデアがわいてくる。

東京都のオリンピック招致や定額給付金について、「勝手にテコ入れ」して「もったいない」をベースにした独創的なアイデアを出しています。サービス精神がすごく旺盛な人のようです。

自分が企画した結果、利害関係や対立に巻き込まれて、小山氏のような人でさえ悩みや心配事があるでしょう。それでも前へ前へと出て行く姿勢は、見習いたいと思います。「何もしないのはもったいない」です。

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