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失敗しない外部設計に学ぶ

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システム構築ではいろいろなトラブルが起きます。言うまでもなくトラブルはない方がいいのですが、実際は避けて通れません。その中でもありがちで頭が痛いのが、システムができあがった後になって、ユーザに「欲しいものと違う」と言われることです。SI会社にとっては、うれしくない状況です。手戻りが発生して余計な工数がかかったり、スケジュールにしわ寄せがきたりします。対応を間違えると、ユーザとSI会社の間で深刻な感情の対立になってしまうことがあります。ユーザとしても、このようなトラブルはない方がいいに決まっています。

私は会社勤めをしている間に、システムを売る側と買う側の両方を経験しました。独立後は、案件によって、ユーザ側で支援させていただくこともあれば、SI会社側でお手伝いすることもあります。

自分が買う側に立ってわかったことがあります。SI会社が作成する要件定義書や設計書は、”ユーザには理解できない”ことです。業務が本業の一般的なユーザには、UML(Unified Modeling Language)どころか、フローチャートさえ難しいです。「この菱形は何?」のレベルです。(注 菱形はなんらかの判断を意味します) 設計書に書かれた画面の略図のイメージで、アプリケーションの操作性を想像できるユーザは、さらに少ないと言っていいでしょう。

これに加えて、レビューの時のSI会社の方の説明は、”システム・オリエンテッド”と言うか、システムの動きの視点から説明することが多いです。しかも、SI会社にとっては常識の、かつユーザにとっては別世界のIT用語が説明に出てきます。

結局、ユーザはシステムのイメージをつかむ事ができずに、「説明はきいたけれど、よくわからない」ままになってしまいます。

一方、SI会社から見ると、「ユーザがなかなか仕様を決めてくれない」という悩みは珍しくありません。実際に日々の業務をしていて、システムを必要としているのはユーザです。原則は、ユーザがシステムの仕様を決めて、SI会社に依頼することです。しかし、現実問題として、それをできるユーザは多くありません。ユーザの本音は、「そっちはシステムの専門家なんだから、うちの事情を理解してちゃんと提案してよ」です。

このあたりのモヤモヤを抱えたまま進んでしまうと、土壇場になって「欲しいものと違う」になってしまいます。こうなると、いくらSI会社が「レビューの時に承認をもらって、議事録にも書いてある」と言ったところで、ユーザと喧嘩することはできません。多くの場合、泣く泣く手直しをすることになります。

このトラブルは、ユーザがシステムの動作を自分の業務と重ねてイメージできなかったことから始まっています。これを防ぐためには、要件定義や設計の段階で、ユーザとSI会社の間でしっかりした共通理解ができていることが必要です。

NTTデータ他の大手SI会社は、”実践的アプローチに基づく要求仕様の発注者ビュー検討会”で「発注者ビューガイドライン」をまとめました。発注者ビューガイドラインは、画面編、システム振舞い編、データモデル編を中心に、概説編と用語集の5編で構成されています。現在は、独立行政法人 情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター (IPA SEC) に著作権が移されています。IPAのWebサイトから無料でダウンロードできます。

発注者ビューガイドラインは、発注者と開発者との意識のズレや、発注者や開発者が互いの意図とは異なる理解をしたことに気づかないまま開発が進んでしまうことを防止するために作成されました。設計書等の表現や確認方法、レビューの方法を「コツ」として集約し、外部設計工程における成果物の単位にまとめられています。

9社が持ち寄ったノウハウをまとめた内容は濃いです。「うちは中小SI会社だから、大手のやり方は必要ない」という声をきくことがありますが、私は会社の規模が違っても学べるものがあると考えます。ただし、発注者ビューガイドラインに書かれていることはあくまでも「コツ」であって、具体的なやり方やテンプレートが提案されているわけではありません。「コツ」を元に、各企業に合わせて考えることが求められているのです。このため、発注者ビューガイドラインを読んだだけでは、どう使っていいのか理解できないことがありました。

日経BP社から出版された「発注者ビューガイドラインに学ぶ失敗しない外部設計」は、コツを具体的に解説する書籍です。この本を読むと、ガイドラインの意味を理解できると思います。無意味なトラブルや手戻りをなくせるなら、これで1,890円は安いです。

私は、弊社のプロジェクト管理の手法に、発注者ビューガイドラインから学んだ内容を加えて、しっかり元は取りました。弊社のプロジェクト管理手法は、ちょっと変わっているかもしれまんせん。機会がありましたらご紹介したいと思います。

なお、IPAでは2009年3月末までに、ガイドラインを活用するための「使い方ガイドライン(仮称)」の公開を予定しています。この書籍とどのような関係になるのか気になるところです。

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