昇進でやりがいは上がる。それでも8〜9割が「理想とのギャップ」を感じている ― コンサル上位職の本音から考える、昇進とキャリアの設計
▫️はじめに
アクシスコンサルティングが、コンサルティングファームの上位職を対象にした調査「コンサルティングファーム上位層のキャリア志向と本音」の結果を公表しました。
役職が上がるにつれて、コンサルタントの仕事は、現場の課題解決から、案件獲得(セールス)や組織マネジメントへと大きく変わります。高い報酬を得る一方で、自分が描く理想像とのずれや、重い経営責任に葛藤を抱える上位層もいる。調査は、そうした上位層の本音に迫ったものです。
コンサル業界の話ですが、読み進めるうちに、日本企業の管理職をめぐる課題と同じ構造が見えてきました。本稿では、調査結果を整理したうえで、人事の視点から私の考えを述べます。事実の整理と私の考えは、分けて書きます。
▫️調査の概要
・調査主体:アクシスコンサルティング株式会社
・対象:コンサルティングファームに在籍し、次の役職に就いている現役コンサルタント273名
①シニアマネージャー相当:136名
②ディレクター相当・プリンシパル相当:107名
③MD(マネージングディレクター)・パートナー以上相当:30名
・期間:2026年9月2日〜9月7日
・方法:インターネット調査
▫️結果1:昇進で、役割は大きく変わる
現在の役職に就いてからの期間は、全体として「1年〜5年未満」が中心で、一定の経験を積んだ層の回答が多くなっています。
プレイヤー時代と比べて、セールスや組織管理・社内調整の業務比率がどう変わったかを聞くと、「大幅に高まった」と「やや高まった」の合計は次のとおりでした。
・シニアマネージャー層:セールス75.0%、組織管理・社内調整79.4%
・ディレクター層:セールス67.3%、組織管理・社内調整66.3%
・MD層:セールス43.3%、組織管理・社内調整60.0%
MD層では、セールスについて「変化はない」が46.7%と多くなっています。調査は、プレイヤー時代からマネジメントやセールスを担ってきたと捉えている可能性を挙げています。
▫️結果2:やりがいは上がる。でも、ギャップも大きい
昇進で、仕事に対する純粋なモチベーションがどう変わったかを聞くと、「大幅に上がった」と「やや上がった」の合計は、シニアマネージャー層66.9%、ディレクター層57.0%、MD層53.3%でした。すべての層で半数を超える一方、職位が上がるほど「変化はない」の割合が増えています。
一方で、売上目標の達成や組織拡大などのミッションと、本来やりたかったコンサルタントとしての在り方との間に「ギャップを感じる」(強く感じる+やや感じる)と答えた人は、シニアマネージャー層90.4%、ディレクター層80.4%、MD層76.7%でした。シニアマネージャー層では「強く感じる」が38.2%と、特に高くなっています。
▫️結果3:ギャップの要因は、層によって違う
ギャップを感じる要因(複数回答)の上位は、層によって異なりました。
・シニアマネージャー層:組織マネジメントや若手育成の負担増(42.3%)、経営責任の重さと報酬・評価の不一致(40.6%)、社内政治や利害調整の煩雑さ(36.6%)
・ディレクター層:社内政治や利害調整の煩雑さ(46.5%)、組織マネジメントや若手育成の負担増(36.0%)、過度な売上・案件獲得のプレッシャー(33.7%)、非生産的な社内管理業務の肥大化(33.7%)
・MD層:経営責任の重さと報酬・評価の不一致(47.8%)、過度な売上・案件獲得のプレッシャー(43.5%)
育成などの現場寄りの課題から、社内の利害調整、そして経営数値と責任の重圧へ。職位が上がるにつれて、葛藤の性質が変わっていくことが分かります。
▫️結果4:「さらなる昇進」を第一希望にしたのは約3分の1
今後のキャリアで最も目指したい方向性は、次のとおりでした(全体)。
・今のファームで、さらに上位の職位へ昇進:34.8%
・今のファームで、現在の職位・環境のまま現状維持:20.2%
・事業会社への転職:16.5%
・スタートアップ・ベンチャー企業への転職:12.4%
・フリーランス・個人コンサルタントとして独立:11.0%
・他ファームへの転職:2.2%
・起業:1.8%
・PEファンドやVCなど投資系ファームへの転職:1.1%
約3分の2が、今のファームでの昇進以外を第一希望にしています。調査は、上位層のキャリアの選択肢が「昇進(Up)」「現状維持(Stay)」「外部への転身(Exit)」に多様化していると整理しています。
昇進後のモチベーションの変化とあわせて見ると、違いがはっきりします。モチベーションが「上がった」層では、昇進(39.9%)と現状維持(23.8%)を合わせた63.7%がファームに残る志向でした。一方、「下がった」層では、事業会社(26.3%)とスタートアップ(26.3%)を合わせた52.6%がファーム外への転身を希望しています(この層は19名です)。
ギャップを「感じる」層でも、約6割はファームに残る選択をしており、ギャップがすぐに転身の引き金になっているわけではない、と調査は見ています。
▫️結果5:現状維持の理由は「満足」ではない
現状維持を選んだ人に、さらに上位への昇進を望まない理由を聞くと、「今の職位・役割に満足しているため」は、どの層でも少数でした(3.5%〜14.3%)。
上位に挙がったのは、次の理由です。
・経営責任の増大を避けたい:シニアマネージャー層65.5%、ディレクター層52.6%、MD層71.4%
・セールスの負担増を避けたい:ディレクター層57.9%で最多
・仕事と私生活の両立を維持したい:シニアマネージャー層31.0%、ディレクター層36.8%、MD層42.9%
現状維持の背景には、今の仕事への満足よりも、昇進に伴う経営の重圧やセールス負担を避けたいという思いがある、ということです(この設問の回答者は、各層で7〜29名と少数です)。
▫️結果6:外に向かう動機は「当事者になりたい」
ファーム外への転身を考える人に、その動機を聞くと、「提言で終わらず、自ら意思決定を行い、実行まで担うため」が、すべての層で35%台と上位に入りました。シニアマネージャー層では「一つの事業やサービスに中長期的に深く関わるため」(42.9%)が最多でした。MD層では「クライアントワーク特有の働き方を変えるため」(35.7%)や、「ストックオプションなど、事業成長に伴う経済的リターンを得るため」(28.6%)も上位です。
年収がある程度維持されると仮定した場合、ベンチャーのCxO候補や大手・中堅企業の役員クラスへの転身に「関心がある」と答えた人は、シニアマネージャー層89.0%、ディレクター層87.0%、MD層73.4%でした。
▫️私の考え1:これは、コンサル業界だけの話ではない
ここからは、調査そのものではなく、私の考えです。
昇進すると、得意だった仕事から、セールスや組織管理、利害調整の仕事へと役割が大きく変わる。やりがいは上がるが、理想とのギャップも大きい。そして、さらなる昇進を望む人は約3分の1にとどまる。
これは、日本企業の管理職をめぐる構造と、驚くほど似ています。以前紹介したパーソル総合研究所の国際調査(2022年)でも、「今の会社で管理職になりたい」と答えた日本の回答者は19.8%で、調査対象の国・地域で最も低い水準でした。プレイヤーとして力を発揮してきた人ほど、管理職になった途端に、得意な仕事から遠ざかってしまう。コンサルファームの上位職は、その構造が最も鮮明に表れる場所なのかもしれません。
▫️私の考え2:「現状維持」は満足ではなく、昇進の設計の問題
私が最も重く受け止めたのは、現状維持を選ぶ理由が「満足」ではなく、「負担を避けたい」であることです。
これは、本人の意欲の問題というより、昇進が魅力的な選択肢として設計されていないことの表れだと思います。昇進すると、責任とセールスと調整が一気に増える。その割に、評価や報酬、裁量が見合っていない。そう感じれば、能力のある人ほど、あえて昇進を選ばなくなります。
MD層で最も多かった要因が「経営責任の重さと報酬・評価の不一致」(47.8%)だったことも、同じ問題を示しています。役割が変わったのに、評価と処遇がそれに見合っていなければ、上位職ほど疲弊します。役割と責任と報酬の整合は、制度設計の問題です。
▫️私の考え3:昇進以外にも、報われる道を用意する
調査は、「アップ・オア・アウト」を前提とした画一的なキャリアパスだけでなく、個人の志向やモチベーションに合わせた多様な選択肢が求められている、と述べています。私も同感です。
専門性を深め、現場で価値を出し続けるエキスパートの道。組織を率いるマネジメントの道。一つの事業に深く関わる道。昇進以外にも、報われるキャリアの選択肢を組織の中に用意できるかどうか。それが、優秀な人材が「残りたい」と思える組織の条件だと思います。これは、コンサルファームに限らず、事業会社の人事制度にも共通する課題です。
▫️私の考え4:AI時代に高まる「当事者」の価値
外に向かう動機の上位に「提言で終わらず、自ら意思決定し、実行まで担いたい」が入ったことは、AI時代の流れとも重なると感じます。
調査や分析、提言の一部は、AIでも出せる時代になりつつあります。だからこそ、意思決定し、実行し、結果を引き受ける「当事者」の価値が高まっています。上位のコンサルタントが当事者の立場を求めるのは、自然な流れなのかもしれません。
同時に、受け入れる企業の側にも準備が要ります。コンサル出身者をCxOや役員として迎えるなら、実際に意思決定し、実行できる権限と役割を渡せるかどうか。肩書きだけを用意しても、「当事者になりたい」という動機には応えられません。
▫️留意点
・調査主体は、ハイクラス人材の転職支援を行う企業です。転職やエージェントに関する設問も含まれており、その点を踏まえて読む必要があります。
・MD層の回答は30名、設問によっては10名前後と少なく、層ごとの比較には幅を持って見る必要があります。
・インターネットのモニター調査であり、回答者の所属ファームの種類や規模は分かりません。
▫️自社で点検したい問い
1. 昇進後の役割の変化を、本人が事前に理解できるようにしているか。
2. 昇進で増える責任と、評価・報酬・裁量が見合っているか。
3. 現状維持を選ぶ人の本当の理由を、把握しているか。
4. 昇進以外にも報われるキャリアの道(エキスパートの道など)を用意しているか。
5. 外部から経営人材を迎えるとき、実際に意思決定できる権限を渡しているか。
▫️おわりに
キャリアの選択肢が多様になるほど、組織には、人が「残りたい」と思える役割と報酬の設計が求められます。昇進は、ご褒美ではなく、役割の変化です。その変化が、本人にとって目指したいものになっているか。AI活用の本質が人と組織の変革にあるのと同じく、人材の定着もまた、人と組織の設計の問題だと考えています。
▫️出典
アクシスコンサルティング「【コンサル上位職のキャリア調査】約7割が現在のファームでの『昇進以外』を第一希望に―昇進後の葛藤と、事業の『当事者』を目指す外部転身の動機」
パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」の報道