【書評】いますぐ「さすが」と言いなさい!
学生時代はしっかり勉強して一流の大学に入り、大企業に就職してマイホームを購入。子供が独立し、定年を迎えたら潤沢な資産を手にハッピーリタイアメント...一昔前に良く言われたステレオタイプな人生プランです。
当時は「何だか面白みに欠ける人生だな~」と忌み嫌っていましたが、バブル崩壊から20年が経った現在、こういった生き方もある意味幸せなのかな、という気もします。何をもって幸せで、何をもって成功かと断言することはできませんが、多くの人が「会社」という組織に属する日本において、会社内での立ち位置、評価、報酬などがその人の幸福感を決する大きな要因となっていることは間違いなさそうです。
スキルよりも、処世術~自分を伸し上げ、ライバルを潰すために~
会社員に求められる能力は、もちろん業種に求められるスキルや専門性であることは言うまでもありません。しかし、それ以上に必要なものは処世術です。多種多様な人間が集まる会社と組織体において多くの思惑と感情が交錯する中で、付くべき人、距離を置くべき者を見極め、自分を如何に生かしていくかが、社内で生き抜き、出世していくための秘訣のように思えてならないのです。
勉強して一流大学に入り、大企業に就職して...という人生地図は、会社が拡大を続け人材を抱えられる余裕があるからこそ成り立つのであって、一人でも社員を減らしたい会社が多くなったでは、処世術のない人間は瞬く間にリストラの対象になってしまいます。ですので、この人生地図には、どこかしら「人間関係論」を学ぶ機会を設ける必要があるのではないかと思います。
私は一流大学を出てもいつまでたっても平社員の人、高卒で30歳を過ぎてから星条旗の星の数が50個ある意味を知ったという、学力的には必ずしも褒められたものではなくても立派に部長を務めている人を知っています。両者の違いはやはり処世術なのです。
私自身も会社員として、社内での人間関係は比較的良好でしたが表面上の笑顔に隠れた「陰の部分」に悩まされた記憶があります。
これは、学生時代上下関係の厳しかった部活にいたこと、そして直球勝負な性格、一見会社側からすれば都合のいい人間であったことが災いしたのです。上司に絶対服従な性格は、何故かある不祥事の責任を押し付けられ、正しいことを言えば「威張っている」と告げ口をされ...私に責任を押し付けた当人は、自分が責任逃れができたばかりか、私の罪(?)を炙りだしたことでトップの評価を高めていったのです。
こういったことは多かれ少なかれどこの会社でもどこの組織でもあると思います。ただ、私に処世術が備わっていれば、こういった事態が私に降りかかることはなかった、つまり処世術のなかった私が引き寄せた悲劇なのです。
そういった、処世術に関する悩みに答えてくれたのが、いますぐ「さすが」と言いなさい!(吉田典史 著・ビジネス社)です。
この書の前書きには、会社員として、本業以外の人間関係で悩む人たちに対して「ああ、そうだったのか」と気付かせてくれる強烈なメッセージが込められています。一部を抜粋したいと思います。
それは今や確信に近いものになっているが、会社で生きていくためには職務遂行能力を高めるだけでは不十分だ、という事実である。どれだけ実績を積んでも、それは生き残りのための決定打にはなり得ない、という事実である。つまり上司こそが、部下の会社員人生を「創る」のだ。特に人事評価、配置転換などがくせものだ。それらの「カラクリ」を理解すると、そこには権力の側(上司を始めとした経営側)に実に都合のいいシステムができあがっていることを思い知る。 現在の会社に残るにせよ、転職するにせよ、このカラクリを踏まえた上で職場で生き抜く技術を身につけることこそ、何よりも必要なのだ。その技術を心得ていれば、次第に自分の中にインフラができあがる。この場合のインフラとは、上司や周囲、取引先などとの関係を良好で質の高いものにしていくことで、高い成績をコンスタントに出していくための基盤を意味する。インフラがないところで職務遂行能力を高めても、その人はいずれ行き詰まるからだ。
どうでしょうか?心当たりはないでしょうか?。
職務遂行能力を高めることは大事ですが、それを評価する上司や周囲を納得させないとそれは評価にはなりません。また、評価がさらにその上に伝わる重要人物に伝わらなければ「頑張ったね」という褒め言葉だけで終わってしまうかも知れません。会社員である以上、賞状や記念品だけの「頑張ったで賞」は、権力の側の自己満足でしかないように思えるのです。
言葉には出さなくても「何でこんな人が偉いのか」「何でこの人が評価が高いのか」と思うことはあるでしょう。よく注意してみてください。この人たちは、縁故入社でもなければ、きっとあなた以上に会社を渡り歩く処世術を身に付けているはずです。小学生の頃に、何かしら密告する女子生徒が先生に可愛がられていたのを思い出しますがまさにそれと同じですね。
本書は、日経ビジネスオンラインの「職場を生き抜け」をベースにしたもので吉田氏が会社のカラクリについて質問形式で答えています。
ビジネス書と言っても、案外、会社員としての経験のない人間や学者が記したもの、現場を知らないコンサルタントが記したものが多い中で、実際に会社員として職場の煩雑な人間関係を経験した吉田氏の言葉だからこそ大きな説得力があります。
正直、この本に1年早く出会っていればもっと「いい会社員」でいられたかも知れません。
吉田典史氏は、ビジネスメディア誠でも「吉田典史の時事日想」という連載を持っています。こちらも併せてお読みいただければ幸いです。
おすすめ度・★★★★★ 5点