みずほ銀行のATMが大量の通帳を飲み込み、対応が遅れた理由
みずほ銀行のATMのトラブルは衝撃的だった。「みずほ銀行が保有する約5900台のうち、ピーク時は7割超に相当する4318台に不具合が出た。」(日経クロステック)。累計5244件キャッシュカードや通帳が取り出せなくなったというというトラブルの規模は前代未聞であり、迅速に対応できなかったために、みすみす2000名ほどの顧客に被害が広がったと考えられる。
「旧日本陸軍では一般的に損耗率50%を全滅と見做した」という基準からするともう、ATMが全滅以上の機能不全に午前になっていた、「みずほ銀が全営業店の行員に出勤指示を出したのは午後2時半。」(日経新聞)という対応の遅れは、現場の顧客の状況を考えずに目の前の定期預金の処理の問題だけを見てしまった結果だろう。
藤原頭取は「午前中は定期預金の処理能力の枯渇問題に対処していた」
と語っており、「前線」で何か問題が起きているか察知する、想像力と仕組みが欠けていたとしか言いようがない。
本質的な問題は、ATMがキャッシュカードや通帳を飲み込むというフェイルセーフ設計の誤り
クレジットカードのシステムを書いていた時に教わったこと、それは安全な方向にフェイルしることだ。カード発行のプログラムであれば不正常なデータが入ったときにそのデータに対応したクレジットカードを発行してしまうことはより大きな問題を起こしかねないのでエラー処理を行いカードを発行しないのが正しい処理となる。
トヨタ生産方式で問題があったらラインが止まるとか聞くがそれも正しいフェイルセーフの考え方だろう。多少の問題があってもラインを止めないという発想もあるが生産性とか安全とか不良品を出さないとか何を大事と考えるかでフェイルセーフの設計が変わってくる。
一方、みずほ銀行のATMは
不正など重大エラーが起きた時に備えて、ATMは取り込んだキャッシュカードや通帳を本人確認などが済むまで返さない仕様だった (日経クロステック)
不正利用を止めるのは確かに銀行にとって大事だろう。しかし、預金の入出金をしたいとか記帳したいという目的を持って来店した顧客の財産たる、キャッシュカードや預金通帳を飲み込んで返さないというエラー処理は、よっぽどの異常処理であり重大インシデントとして扱うべきだろう。不具合でそうなってしまうことがあるのも分かるが、起きたら、検知してその発生度合いを幹部が即座に把握できるような仕組みが必要だったのではないだろうか?
そもそも、顧客にサービスを提供するという発想でシステムを構築していたら安易にキャッシュカードや通帳を取り込んでしまうという設計にはならないだろう。
マニュアル通りに対応で、何千人もの顧客が長時間待たされたのは行動規範に欠陥があったから
みずほ銀行は記者会見で「マニュアル通りに行動したため顧客対応が遅れた」みたいな説明もしたそうだが、それはどうかと思うぞ。正確には、システム障害時の対応マニュアルに「バグ」があったということでしょ。マニュアルに従って対応するというのが基本中の基本。現場力で何とかするは危険な発想。 https://t.co/Nf7ESkMy33
-- 木村岳史(東葛人) (@toukatsujin) March 2, 2021
日経BPの木村岳史氏の指摘はもっともで、現場の判断でどうにかするというのも銀行としては問題が大きい。しかし、日本航空の縦割りの官僚主義の弊害を稲盛会長が顧客第一に体質を変えて、再生した話をとか聞くに、みずほ銀行には大きな問題があったことが分かる。顧客を第一に行動しろという規範があれば、経営層に問題が迅速に報告されてATMで多くの顧客が困っているという重大事態が迅速に把握でき、必要な善後策がとれたのではなかろうか?
すべての物事をマニュアルに盛り込むのは難しい、しかし、顧客を第一に考えて行動し、上司に報告しろという行動規範は作れる。ATMの運用は外部の警備会社に任せていたのだろうが、異常の大量発生とかいう事態を観測してほぼリアルタイムに把握するしくみが無かったのか、動かなかったのか詳報を待ちたい。
いずれにしろ、みずほ銀行は、顧客のことをまず考えて行動するという規範に欠けていたのではないか問い直し、信頼の再生へ再出発を願っている。私の社会人人生は、みずほ銀行につながる、富士銀行・芙蓉グループの安田生命保険ら始まり、新入社員研修の一環で、サッポロビールや日産自動車の工場を見学した。競争の激化で大変だとは思う。それでも、なお、安田芙蓉グループの創設者、安田善次郎翁の「お客様第一」の精神は忘れずにいてほしいから。