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ソーシャルグラフの進化と新興サービスがとるべき戦略

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Toru_saito_Fuyu Fuku
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ソーシャル・ネットワークにおける人間関係の情報は「ソーシャルグラフ」と呼ばれ、その重要性ゆえ、日増しに注目が高まっている。過去に「ソーシャルグラフってなんだろう?」という記事で多面的な解説を試みたが、それ以降、新しいサービスの台頭でソーシャルグラフはさらに進化を続けている。
 
そこで当記事では、その続編として、ソーシャルグラフの種類、それぞれをベースとしたサービス、最後にソーシャルグラフをめぐるサービス戦略について、それぞれ考察を加えてみたい。なお、この内容は、前回の「LooopsTV」にて口頭説明した内容をブラッシュアップしたものだ。
 
 
■ ソーシャルグラフの種類について

まず、シンプルなソーシャルグラフを考えてみよう。人と人の関係性について、ベーシックな理論として引用されることの多いのは、社会学の権威であるマーク・グラノヴェッター氏による「The strength of weak ties (弱い紐帯の強み)」(Wikipedia) だ。
 
この理論では、家族や親友などの強い絆より、単なる知り合い関係のような弱い絆の方が多様性に富んでいるため、情報探索などには遥かに有効だとし、LinkedInなどの初期ソーシャル・ネットワークのサービス設計に大きな影響を与えた。

また、Googleリサーチャー、ポール・アダムス氏は、「Bridging the gap between our online and offline social network」(Slideshare) にて、強い絆、弱い絆以外に、一時的なゆるい絆が存在しており、ソーシャル時代において、その絆が重要になっていることを示唆した。

さらに、私見だが、これら強い絆、弱い絆の間には、所属組織(会社、同好会など)の絆という、中間の特別な関係性があると考えている。これらを一つの図でまとめると次のようになるだろう。

Fig1_2
 
ここで、家族・親友が「強い絆」、同僚が「所属組織の絆」、知り合いが「弱い絆」をあらわしている。それぞれの関係における人数についてもさまざまな見解がある。例えばFacebookを例にとると、常時やり取りをする関係は4-6人、平均友人数は130人だ。また携帯電話では、通話の80%は特に親しい4人との通話に使われている。人類学者であるロビン・ダンバー氏が提唱した親密なグループを形成する限界数150人は「ダンパー数」と呼ばれ、大脳皮質の大きさに依存しているという仮説もある。
 
いずれにしても弱い絆、強い絆、ともに限界の数字があるのに対して、一時的な絆には限界はない。論理的には世界のインターネット人口、20億人を上限として、さまざまなカタチで一時的な関係性を持つものだ。

さらに、最近、ソーシャルグラフの拡張形として注目されているのが、インタレストグラフ(共通の趣味や出来事によって結びついた人間関係)だ。このインタレストグラフの概念を先ほどの図に重ねると次のようになるだろう。

Fig2

インタレストの対象は多様だが、ビジネスに結びつきやすい分野を4つ挙げて、グラフ内に例示してみた。ただし、これらの関係性は常に流動している。オンラインで知り合った友人とのオフ会で面識ができ、リアルに繋がっていくことなど日常茶飯事だ。そのため、ソーシャル系サービスにおいては、ある一時点ではなく、グラフを常に最新な状態に更新していくことが肝要となる。
 
現在のソーシャル系サービスで特に注目が集まっているのは、①リアルな人間関係の中でのクローズドな情報共有、いわゆる「リアル・クローズド」な世界(上図の青い領域)と、趣味やイベントなどを素材としたオープンで一時的な繋がり、いわゆる「バーチャル・インタレスト」な世界(上図のピンクの領域)の2領域で、それぞれに多くの新興サービスが雨後の筍のように参入しはじめている。
 
特に新しいサービスにおいては、スマートフォンを前提とし、リアルタイムで、位置情報を巧みに活用するものが増えてきた。では、これらのソーシャルグラフと、既存サービスの関係性を見てみよう。
 
 
■ ソーシャルグラフの種類に対応したサービス群について

まず、ベーシックなソーシャルグラフに対応したサービスを、種類別に分類したのが下記の図だ。

Fig3

最も濃い「強い絆」における写真共有サービスとして注目されているのがPath、共有できる人数は最大で50人。いつも連絡を取り合っているごく親しい家族や仲間たちと、シンプルな操作で「今の共有」をすることを目的とした、スマートフォン前提のサービスだ。

続いて「所属組織の絆」にフォーカスしているのが、SalesforceやYammerなど。日本でいえば、サイボウズLive がこれに相当するだろう。ここでは、スケジューラーやタスク管理など、プロジェクトを推進するためのツール群の提供が重要となってくる。
 
そして「弱い絆」にターゲットとしているのが、Facebookやmixiのような、いわゆる全方位型の本格的なソーシャル・ネットワークだ。この弱い絆は、すべてのサービスの基軸となるソーシャル・ネットワークの基盤となるため、他のあらゆる分野に先駆けて激しいシェア競争が繰り広げられた。
 
弱い絆の外側、「一時的でゆるい絆」にフォーカスしたのがTwitterと言えるだろう。お互いの許可なくフォローを自由にしあえる関係を元に、Twitterワールド内に多様なグループやインタレストグラフが共存している、いわゆる「緩いつながり」だ。
 
さらに、ここにインタレストグラフを組み合わせて、サービス分類を試みたのが次の図だ。

Fig4

例示している4分野を見ると、それぞれ、すでに多くの呼応するサービスが存在していることがわかる。また、これらの分野以外にも、数多くの注目事例がある。例えば最近とみに注目つつあるEtsyは「ハンドメイド」というジャンルで、極めて濃密なEtsyファンの繋がりを構築しているし、国内で言えば「化粧品」に特化した @コスメ なども典型例だ。

Appleファン、Coca-Colaファン、Starbucksファン、ムジラー(無印良品ファン)なども、ブランドに強い興味を持つ、一種のインタレストグラフと考えられるだろう。古くからソーシャルに積極的なP&Gにいたっては、BeingGirl(若年層の女性)、Pampers village(幼児を持つ母親)、VocalPoint(インフルエンサー主婦)と、分野ごとに独自コミュニティを構築し、独占的なインタレストグラフを所有している。
 
インタレストグラフを形成できると、①該当分野の商品サービス販売にダイレクトに結びつく、②人々の嗜好性を理解した上できめ細かいターゲティング提案ができる、③同好の人たちが集まっているため良い商材は容易にバイラルしていく、④効率的な広告が可能となる、などのビジネスに直結する特性がある点が重要だ。つまり、ソーシャルグラフと比較して、インタレストグラフはビジネス化しやすい側面を持っているのだ。
 
 
■ ソーシャルグラフをめぐるサービス戦略考

では、最後に、新興ソーシャルサービスがとるべきソーシャルグラフ戦略について、現在のポジショニング分析から検討していきたい。本来は、ソーシャルグラフだけでなく、各インタレスト分野におけるポジショニング、また地域別のポジショニングも考慮すべきであるが、ここではシンプルに、ベーシックなソーシャルグラフを基軸とした。したがって、あくまで参考意見として見ていただければと思う。

検討のべースとした理論は、やや古いがフィリップ・コトラー氏の「ポジショニング戦略」、下記のようなフレームワークであらわされるものだ。

Fig5_2
 
このフレームワークは、リーダー40%、チャレンジャー30%、フォロワー20%、ニッチャー10%のシェアの時に最もよく当てはまると言われている。また、ここでの「量的資源」とは経営資源量をあらわし、「質的資源」とは技術力、マーケティング力、ブランド力、リーダーシップ力をあらわしている。
 
このようなポジショニングにおいて、それぞれ取るべき基本戦略パターンを、コトラー氏は次のように分析した。

  • リーダー戦略:豊富な資源をフル活用し、ライバル企業との同質化戦略、商品ラインナップ拡充を図る。
  • チャレンジャー戦略:リーダーとの差別化を行いシェアを伸ばす。リーダーの同質化戦略に注意する。
  • フォロワー戦略:経営資源の蓄積に努め、リーダーやチャレンジャーの模倣を基本戦略とする。
  • ニッチャー戦略:特定領域(顧客・製品・エリアなど)に集中して、独自のポジションを築く。

では、これをソーシャルグラフを基軸としたビジネス分野にあてはめる仮説を考察してみたい。
 
■ リーダー (Facebook)
ワールドワイドに見れば、文句なくFacebookだ。最も重要である「弱い絆」のソーシャルグラフにおいて、寡占的なシェアを持つに至っている。彼らの基本戦略は、Social Pluginの普及を推進し、あらゆるウェブで利用されるソーシャルグラフを独占すること、そしてそれをエッジランク分析(人間関係分析)等によって徹底的に磨きあげ、比類なきものに昇華させることだ。チャレンジャーの挑戦(例えばTwitter、位置情報ではFourSquareなど)に対しては、同質化戦略でその機能を迅速に取り込むことで、リーダーのポジションをさらに強固なものとしている。
 
■ チャレンジャー (Twitter)
分野ごとにFacebookのチャレンジャーは存在(Google, Foursquare等)するが、ソーシャルグラフに関して言えば、やはりTwitterだろう。一時、マーク・ザッカーバーグが過剰なまでにTwitterを意識したとインタビューでも答えており、実際に迅速な同質化戦略で対抗した。一方のTwitterは、すでにソーシャル・ネットワークとしてFacebookと競争するのは困難と判断し、昨年後半より「Real-time Information Network」としてのブランディングを強めている。つまり、彼らは、一時的なゆるい絆をベースに、リアルタイム情報メディアとして成長させることで、Facebookとは異なる土俵で勝負しようとしているのだ。
 
■ フォロワー (LinkedIn, Mobage, GREE, mixi ... )
フォロワーの定義は難しいが、Facebook、Twitterに準じて、一定の影響力があるソーシャルネットワークを保持しているサービスを想定している。この分野は、Facebookと正面きって全面戦争するのではなく、分野を特化した上で、Facebook戦略を模倣する企業が多い。具体的には、独自ソーシャルグラフを所有しながら、インタレストグラフを強化し、分野No1を狙う戦略だ。
 
■ ニッチャー (GetGlue, iLike, Flixster, BranchOut ... )
フォロワーは比較的成熟した企業が多いのに対して、今あついのが、この新興系ニッチャー企業群だろう。ニッチャーは、市場リーダーであるFacebookから競争相手として認識されないため、取れる選択肢が豊富だ。そのため多くのニッチャーにおいては、Facebookの持つソーシャルグラフを基軸とし、それに対して独自の付加価値を構築しようとしている。TwitterやApple(Ping)、GoogleなどがFacebookからPlug in連携を拒否されているのを見てもわかる通り、軽量級のニッチャーならではの強みなのだ。また、新興ニッチャーは、スマートフォンに特化することで、機能や使い勝手を徹底的に磨いているものが多い。そのため、機能が肥大化しやすいPCベースのサービスに対して、シンプルイズベストを強みとしているサービスが多いのも特徴と言えるだろう。
 
■ イノベーター (Color ... )
さらに、ニッチャーにも属さない、全く新しい技術をソーシャルグラフに持ち込もうとしているベンチャー企業もあらわれはじめた。例えば、やはりスマートフォンを前提として、GPSや基地局などの位置情報、そして写真や動画のレンズ光量、音声ノイズなどからソーシャルグラフを自動的に識別するテクノロジーを売り物にしているColorがそれに当たるだろう。新しいテクノロジーを標榜するイノベーション企業だ。名著「イノベーションのジレンマ」が説いた通り、初期段階では非効率に見える革新的技術の中から、時間とともに既存技術を上回り、新しい時代のリードテクノロジーとして成長するものが必ず生まれてくる。

1.技術革新が激しい業界において優良企業が衰退していくのには共通のパターンがある。それは顧客の声に耳を傾け,既存製品・技術の改良を行い,さらなるシェア向上を目指す「持続的インベーション」に集中してしまうことに原因がある。
2.革新的技術による「破壊的イノベーション」が生まれても,それは自らのビジネスモデルを破壊するものであり,かつ当初は量産している既存技術の方がコストパフォーマンスが良いため,成功体験におぼれた優良企業ほど革新を受け入れにくい。
3.そのため「破壊的イノベーション」は既得権益を持たないベンチャー企業の登場により普及することがほとんどだ。一方優良企業は顧客ニーズを超えた「持続的イノベーション」を供給し続け,「破壊的イノベーション」に主役の座を奪われる結果となる。
                  (イノベーションのジレンマ要旨)

Colorがそうなるかどうかは神のみぞ知るところだが、「ソーシャルグラフ、インタレストグラフの自動的な生成」や「セレンディピティの効率的な創造」などが、新しいソーシャルグラフ・テクノロジーを切り開いていく端緒ではないだろうか。
  
 
以上、ソーシャルグラフの種類や、それに対応するサービス、ソーシャルグラフをめぐる企業戦略等を考察してみた。最近、日本からも、イキのいい、はじめからグローバル展開を前提としたサービスが、続々と生まれはじめている。そして、彼らの多くは、スマートフォン、ソーシャルグラフ、ロケーションをベースにした、シンプルだが世の中を良くするソリューションだ。

近い将来、日本発、世界にはばたくソーシャルベンチャーが誕生することを確信しつつ、この記事が、そのような新しいサービスの創業に何らかプラスになけば、それ以上にうれしいことはない。
 

 

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