技術の進歩がコマーシャルを追いつめるまであと5年
会社に届いていた「日経エレクトロニクス」をぱらぱらとめくっていたら、「デジタル放送全部録り」という特集記事。2010年にはハードディスクレコーダーの容量が3テラバイトになって、地上デジタル波の全チャンネルを一週間分ぶっ続けで録画できる機器が「あたりまえ」のように登場するそうです。専門誌ならではの実現に向けた詳細な解説があります(専門誌はこうじゃなくちゃね)。
HDレコーダーについては、半年前の5月に野村総研が、CMスキップ機能で540億円分の広告費の損失が想定される、というレポートを公表して大きな反響を巻き起こしたばかり。野村総研の関係者は対応が大変だった、とこぼしていました。
このレポートはいろんなところで議論のタネになっていますが、日経エレクトロニクスが「2010年に一週間分全部録りのHDレコーダー登場」と予言して「あと5年」というタイムリミットが設定されたことで、一気にリアリティを増したように思います。専門誌の面目躍如、というところでしょう。
で、以下はたぶん、多くの人の議論の中で一度はでてきたこととは思いますが、今回の記事に刺激されて私もCM議論に参加してみます。
野村総研のレポートによると、録画された番組では過半数以上の人が80%以上のCMをスキップしています。全体を平均しても、64%のCMがスキップされるとのこと。
2010年、全チャンネル1週間分の番組が録画できるなら、私たちはほとんどの番組を録画してから見るようになっていてもおかしくありません。普及率も、現在の15%から大きく向上していることでしょう。そうしたらCMはどんどんスキップされて、いったいどれだけのCM効果が失われるのでしょうか。ちなみにテレビCM市場は2004年で2兆436億円。失われる効果を金額に換算するだけでも、部外者の私でさえクラクラしそうです。関係者の危機感は相当なものでしょう。
日経エレクトロニクス誌では、2010年のHDレコーダーの競合として、ネット経由でのテレビ番組配信が挙げられていました。つまり、ネット配信により放送済みのテレビ番組がいつでも見られるようになれば、わざわざ録画する必要があるHDレコーダーは使われなくなるだろうと。
たしかにそれも一理あります。でも、2010年にテレビにつながっていてリモコンで操作するのは、やっぱりPCではなくHDレコーダーのような気がします。それとも、ネット対応のセットトップボックスが普及しているでしょうか?
一方で、ネット配信のほうがコマーシャル飛ばしを禁止するような制限をプレイヤーに埋め込んだり、配信相手に合わせたコマーシャル配信が可能になるなど、送り手側の自由度は明らかに高まります。となれば、いまの危機感に背中を押されて、これから5年で一気にネット配信番組が拡大する可能性もあります。
というか、変なサルを使って「CMのCM!」なんていう、「どれだけ効果があるの?」と思うCMをやるより、こっちにシフトする方にお金とアタマを使ったほうが建設的なような気がしませんか?
ITの世界では広告があらたな収入源として注目を浴びる一方、これまで広告の王様として君臨してきたテレビコマーシャルは技術の進歩によって追いつめられているわけです。広告業界は(も)、これから大きな変革が起きるような気がしますね。
ついでに、米国と日本のCM飛ばしに対する対応の記事のリンクをメモ代わりに添付します。