ヤマザキマリ、とり・みき『プリニウス完全ガイド』
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面白いのは、とりさんがマンガの絵を軽く読み飛ばしていく日本主流の「読み」に反発していて、それも動機の一つになっていること。当然、ある種のBDやグラフィック・ノベルも、そのさいに参照されている。とりさんはもちろん、日本マンガの主流が、むしろ言葉だけを追ってお話をたどる快楽、軽やかな「読み」にあることは重々知っているし、それを否定はしてない。でも、表現者として選択がありうることを、ここで表明しているし、ヤマザキマリさんも共鳴している。海外コミックの情報紹介や翻訳が進む時代に、当然出てくる方向だし、面白い実験だともいえます。潜在的には、おそらく大友克洋などにも同様の方向性があったはずです。
ところで、この本にはそれこそ様々な驚きがあって、たとえば「古代ローマには糸杉はなかった。早くても8世紀頃ペルシャから入った」と、考古学の先生から教えられるところ。これは、最近ローマに行った僕にとっても驚きでした。ローマといえば、糸杉と松(『坊っちゃん』に出てくるターナーの松と同じキノコ型の松ね)だと思ってたし。山根緑さんにご教示いただいたところでは、あの松は下の葉がどんどん枯れていくので、枝を伐採していくと、ああなっちゃうんだそうで、たしかに枯れてるところを見ました。あと、ローマに多いカモメも、山根さんに聞いた話では、海の魚が減ってきて都会に住むようになったとか。『プリニウス』では、自由なカモメ(プリニウス)と籠の鳥のインコ(ネロ)が象徴的に対比されてますが。
ともあれ、マンガ表現についてだけではなく、様々な雑学的興味も満たしてくれる本でした。
下は、マリさんの下絵~人物に、とりさんの背景が重なっていく過程(同書p146~147)。
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