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夏目房之介の「で?」

松本かつぢ『?のクローバー』

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2_7 『?のクローバー』(「少女の友」昭和9年4月号付録)の、かつて見てびっくりしたページ(p6)。何といっても、右上の梁の上に颯爽と立つマスクの少女剣士のかっこよさが際立つ。この俯瞰の構図も驚き。これだけではなく、他の付録漫画も含めて、奥行きのある構図が多い。奥行きと動きを、どうにかしてコマ漫画に表現したいという意欲が感じられる。

2_8 次の7ページ(見開きの左側)には、右下に動きのある群集場面。アニメーションで次々と人が奥に向かって走ってゆくような、躍動感のある画面。ディズニー好きだったかつぢのイメージがどのへんにあったのか、ここでも感じられる。

2_9  ここでは老婆に変装した少女剣士の戦闘場面が、奥行きの手前と奥の関係で数コマに分節されている。と同時に、ページを2×4=8コマ基本にした上で、さらに縦に割って、12コマ横読みにしている。おそらく当時のコマ漫画としては、相当コマ数が多く、その分大きなコマと絵を使って、奥行きと動きの可能性を追求したんだと思う。本誌の倍ほど大きい版型にしたのも、あるいはそのためだろうか。
左右ページ見開き単位の構図の相対性、横方向の読みと、奥行きへの視線運動もかなり考えられているように思えます。戦後マンガで展開する、こうしたコマ構成への欲求が、すでに昭和9年段階であったことになりますね。

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