現代マンガ学講義17 視線誘導論(2)
2008.10.23講義 (ブログ用メモ
1) 少女マンガ的なコマ
「少女マンガ」という呼称の成立 少年/少女概念の成立 →雑誌の成立(戦前) →戦後少年/少女雑誌のマンガ誌化 →「戦後マンガ」ジャンルのサブジャンルとしての「少女マンガ」 →70年代の「少女マンガ」変革過程での独特な表現様式の成立 →少年/青年/少女誌と読者の多様化 「少女マンガ」を男女、年令上の女性も読む状況 →「少女マンガ」的なるもの(少女マンガ誌でなくとも存在する
「少女マンガ」と少年/青年マンガとのクロオーバー(80年頃 ラブコメ) 相互影響
表現様式の混交 典型的に「少女マンガ」と見なされる表現とは何か?
2)具体例
篠原烏童(うどう)『1/4×1/2R(クォート&ハーフR)』 「ネムキ」朝日ソノラマ 05年3月号所収
201p 冒頭、横コマを縦に潰してゆく圧縮効果
202~203p 斜めの視線誘導→回転運動(躍動感 美青年の畳み込み強調=重複(多層性 クサビ型コマの多用 ノド中央(主人公と猫)から放射状にイメージが広がるデザイン 美青年の「顔」を見たい/見せたい(描きたい 装飾的な空間の華やかさ
● 視線ラインに対し、常に二つの情報要素が並行する
美青年の遠近画像 →美青年と猫 →セリフと顔 →二つのナレーション
少女マンガ的構成の多層的な「読み」 情報要素の散乱(慣れないと読みにくい
周辺視の幅の大きさ(多層性
206~209p 振り子のように揺れる視線ライン 美青年の大小重複(顔+上半身と目
間白がなく、非常に複雑煩瑣な「見分けにくい」画面のようだが、必要な情報(中段左のアナウンサーの紹介など)には目が行くように計算されている(ただし、少女マンガ的な文法に慣れた読者にとっての「読みやすさ」
左ページに揺れるように上がった視線がゆらゆらと落ちる効果(めまい
見せたいもの(華やかな美青年)以外の情報をできるかぎり排除 焦点化
(青年マンガの例と比較すると、リアルな背景描写はほとんど必要最小限
207p 最後のコマ 白い余白の効果(気分的に「抜け」てゆく解放感 →めくり
208p めくり効果の上方開放(実際の視線は下向き? →再び左側でコマ圧縮
209p 左側に背景のない余白の空間(少女マンガ的な「間」の感覚
● 多層化
人物やキャラクターがコマの上に重なり、コマ自体も間白で区切られず、空間に重なっている
吹き出し、ナレーションについても同様 各要素が互いに侵犯し、重なり、コマの枠線も途中で消えることがある(208p →コマ枠線・間白の「時間分節」という規範力の減退 焦点化と多層化の共存
2)今市子『百鬼夜行抄』17 朝日新聞社 08年 18~19p 78~79p
顔と文字が前で出てくる構造 文字の優勢 コマ構成は一見「青年マンガ」的
文字の多さと無枠コマの重要さ とくに無枠(ないし断ち切り)コマにおける無枠文字(内語、ナレーション)などの前景化 大塚英志の少女マンガ規定
文字を読んではじめて物語がわかり、中に入れるマンガ(絵は、その物語の「雰囲気」を補助的に伝える機能) 文字優位の読み方と読者 絵優位の読者との違い
物語の中に入ってはじめて面白いマンガ(外から一見するとめんどくさい画面
マンガには絵優位と文字優位の表現、リテラシーがある
文字の優越と「絵と文字」(映画と文学)
3) 比較 青年マンガと少女マンガ的コマ構成
佐藤秀峰『BJによろしく』と篠原烏童『1/4×1/2R』 模式図のコマ比較 コマ構成自体に違い
浦沢直樹『PLUTO』と今市子『百鬼夜行抄』 同上 コマ枠線の省略と無枠文字の優位
参考比較 井上雄彦『スラムダンク』と八神ひろき『DEAR BOYS』
京都・花園大学 増田のぞみ模擬講義より(08年夏) 卒論の例示より
4) 少女マンガ的コマのモデル化
夏目他『マンガの読み方』宝島社 95年 180p 〈アニメのセルのように重なるコマ〉
レイアー構造としてのコマ
少女マンガ的な間白の例 同上 192~193p 重層・内包などの特性
視線誘導の不安定さ あるいは多層化
伊藤剛〈フレームの不確定性〉の露出 映画的コマ=フレームの規範化(青年マンガ)と対比的 紙面・画面とコマ →「映像とマンガ」の講義想起 映像フレームとの違い