最終夜『のだめ』のレジュメ
BSマンガ夜話 2007年11月29日(火)24:05~
二ノ宮知子『のだめカンタービレ』(講談社Kiss 01年~連載中
1) 異端の少女マンガキャラのだめ
ドジでマヌケで一見可愛くない少女キャラはアリだが、「汚い」はナシだった
事実、連載当初は読者に引かれていたらしい
「汚い」描写(『平成よっぱらい研究所』作者の面目躍如
図1 1巻53p 隣のベランダから流れる汚水にたかるアリ!
図2 同上58p 黒くとぐろを巻く一年前のクリームシチュー
ご飯に生えるイクラ(カビ 洗濯物のキノコ
+〈おフロは2日おき シャンプーは5日おき〉で髪臭いのだめ(同83p
少女マンガのヒロインとしては過去ありえないキャラ
→欧州編になると成長し、部屋もだいぶキレイに
図3 11巻83p この作品が成長物語であることを示す
ともに自覚のない「貴公子と平民の貧しい(汚い)少女の成長と恋」の物語
基本類型は鉄板のような伝統型+新しい意匠とセンス
もう一つの新しさ=音楽、ことに交響楽団を主題にしたドラマ
2) 音楽表現としての『のだめ』
「音の出ない(時間を直接表現できない)紙の上で、いかに音楽を感じさせるか?」 音楽のマンガ表現は困難な歴史を歩んできた
~50年代・♪を書き込む古典表現→60~70年代・宮谷など若者マンガの実験 →80~90年代『To-y』『Beck』などの洗練 でもロック主流
クラシック物でも、ほぼ個人演奏 オケストラは珍しい
音楽表現としては、個人演奏のほうがやりやすい
図4 9巻22p のだめ〈渾身のシューマン〉古典的♪表現の工夫(縦の協調
本来楽譜は日本マンガと逆方向に進行する
図5 同上24~25p 観客や解説者(千秋=上級者)の感嘆
〈こんな演奏をするあいつを はじめて見た〉千秋
〈すごい集中力〉客
基本的な構造はスポーツ物、バトル物の「強さ」表現と同じ
(『Beck』で解説した
『ガラスの仮面』同様、賞賛される演者は「我を忘れ」目を描かれない
図6 同上44p 縦画面=失速場面、つり人形の落下(演奏曲主題と物語主題の重ね合わせ 見事な縦コマ構成(音楽表現としては一番いい
縦コマによる断ち切るような時間の表現は日本マンガの得意
少女マンガ得意の主題である「人間関係」と関係的感情が音楽主題にからむ
図7 同上58p 縦構成による「止め」 のだめの挫折 千秋との関係の頓挫
3) オケストラ・マンガとしての『のだめ』
図8 5巻78~79p 遠近のあるカットバック →解説者の言葉(凄さ、主題、技法の説明 オケの奥行き描写 あまり新鮮味はない 集団音楽描写の困難さ
この場面でいいのは、千秋の独白
図9 5巻84~85p 各パートのカットバック(楽器と音の連想 効果線
→〈いやだな もうすぐ終わりだ〉 独白のみの白いコマ(意識の「抜け」
〈もっと・・・・教えてほしいことがあった〉
図10 同上86p 〈もっと聴いて 感じていたかった この人の音楽を〉
シュトレーゼマンと千秋の音楽的人間関係
(千秋にとって「音楽」は、必要なものなのに、いつも自分の美意識を破壊する、とんでもない経験としてやってくる=表現芸術の比喩にもなっている
マンガにおける集団的な音楽表現を輝かせているのは、人間関係
(人間関係の音楽イメージへの投影・逆に音楽イメージの人間関係への投影
→『のだめ』的音楽表現
ちなみに、図9,10と、演奏がバラバラでヘタな場面を比較
図11 2巻158p 各人がバラバラ=目線、顔や弓の角度、模様など
秩序=いい演奏(絵やコマでも表現可能