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夏目房之介の「で?」

仏コーネリアス出版社の社長

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ジャン・ルイ・ゴーテー氏が来日中ということでマンガ史研究会とBD研究会の合同会合に彼を呼んで5月13日、日仏会館で質疑会が行われた。司会は細萱敦氏。僕は前に彼と日本で会っているのだが、まだ日本に来て一週間だかで日本語も無論ダメなのに「戦前の日本漫画の単行本は素晴らしい、装丁も布張りでいい仕事だし、カラー印刷も素晴らしい」などといって、僕らを驚かせた。
フランスでも彼の仕事は非常にクオリティが高く、評価されているらしい。最近、水木しげる『ノンノンバァとオレ』を翻訳し、それがアングレーム国際BDフェスティバルで優秀賞をもらった。これはタイヘンなことである。水木しげるは、これまであまり紹介されておらず、それがいきなり外国部門賞とかではなくてBDとしての優秀賞をとってしまったのだから。水木ファンとしては嬉しいかぎりだ。

というわけで、

質疑がおこなわれたが、フランスのBDの認識枠組と日本側に差異が大きく、例によって少しすれ違いがおきる。僕は彼の編集者としての作家との合議が、フランスの編集制度でも普通に行われるのかを聞いた。日本のマンガ編集の介入の強さが、国際的に珍しいシステムだと認識しているからで、フランスの状況を確認しておきたかったからだ。
でも、ジャン・ルイは、たいていのフランス人編集者がそうであるように「私はあくまでアーティストの自主性を尊重し、彼らが望むときにのみ合議するのだ」と、まるで「作家に介入する悪者ではない」といういいわけめいた返答になる。このあたりは、フランスと日本の、マンガとBDを巡る認識文脈の違いからくる誤解である。まぁ、よくあることなので、理解してもらって「自分のやり方はフランスでも特殊であり、ふつうは編集者は日本ほどこまかく合議しない」という答えはもらったけどね。

僕は、そのあとの予定があったので3時過ぎに失礼したため、その後の展開はわからない。

追伸

ジャン・ルイのいったことで面白かったことを一つ。

水木しげるの受賞について聞かれて「多分、審査員には、日本MANGAもまたBDであると知らせたい気持ちがあったのではないか。そのことによって商業主義的なイメージのある日本のMANGAにも、深いテーマをもったBDがあることを知らせようとしたのだと思う」というような答え方をしていたこと。その場の通訳を通じて聞いた、微妙な誤解やすれ違いを産む可能性もある内容だが、何か面白い発想だな、と日本人としての僕は思ったのだった。「優れた表現であるBDの側に、日本マンガ(の一部)を取り込みたい」という欲求があるということなんだろうか。僕などには、優れたマンガと、そうでない「商業的な」マンガを区分したい意識がないので、面白い考えに映るのかな。

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