【Book】『世界40億人を優良顧客にする』
世界40億人を優良顧客にする! (ほんとうの金融を求めて創った仕組み)
- 作者: 枋迫 篤昌、構成;芦塚 智子
- 出版社: 日経BP社
- 発売日: 2012/1/26
本書は元・東京銀行(現・東京三菱UFJ)の社員であった杤迫 篤昌氏が起業し、マイクロファイナンスの事業を手がけるようになるまでの奮戦記だ。
元・東銀マンというとエリート街道まっしぐらというイメージを持つ人も多いかと思うが、氏のキャリアは非常に泥臭い。会社で社費留学が決まるも、行き先がなんとメキシコ。その後も、勤務先はエクアドル、ベルー、パナマと中南米を転々。貧困や政情不安の中、仕事の上でも様々な修羅場をくぐり抜けた9年間であった。
そんな中南米での生活を送る中で目にした貧困の現実。彼らの生活を見て著者が決心したのは、貧しくても一生懸命頑張っている世界中の人々の真のニーズに応えられるような「血の通った金融サービス」実現したいということ。そんな思いを胸に秘めての起業であった。
水は高いところから低いところへと流れるのが世の常だが、お金の流れは必ずしも重力の法則には従わない。本当に必要な人のところへ、必要なものが行き渡らない、それが現実だ。
その要因の一つに挙げられるのが「アンバンクト」の問題。米国の全家庭の7.7%にあたる900万世帯が金融口座を持っていないのだという。彼らの多くはヒスパニックの移民であり、仮に出稼ぎで米国に来ていたとしても、実家への送金が非常に困難な状況にあるのだ。
やむなく送金業者を利用することとなるのだが、送金業者は一般的に手数料が高く、街角の酒屋や雑貨屋が兼業しているなどプロフェッショナルな金融サービスを提供しているとは言い難い。それがさらに、貧困のスパイラルに拍車をかける。
しかし、送金が現金で取引され、金融システムの外にあるというのは非常に無駄なことなのだと、著者は言う。はたしてマイクロファイナンスと送金と移民に関する問題を、システムで解決することが出来ないか?そうして考えられたのが、銀行勘定系ソフトウェアをインターネットに接続して稼働させる技術を元に開発された、送金ソリューション「アリアス」である。
送金が現金で取引されなければ、犯罪の防止につながるし、輸送費、保険料などの手数料も抑えることができる。また、送金を金融システムの中に組み込めれば、その国の経済指標に反映されるというメリットもあった。見方を変えれば、送金は、需要と供給がマッチしていない、見過ごされた巨大市場なのだ。その市場規模は約26兆円。しかし今度は、そこに立ちはだかるように、、借り手の信用力という大きな問題が立ちはだかっていた。
例えば、この分野で有名なグラミン銀行。この銀行なぜ98%という高い返済率を実現できているのか。それは借り手がみな正直な聖人だからではなく、担当のローンオフィサーが日々、村に通って監督しているからだという。借り手は5人による互助グループを作ることが義務付けられており、一人でも返済しない人が出れば5人全体の責任になる仕組みだ。
これに対して著者が考えたのが、自分自身で信用力の仕組みを作ってしまおうということである。米国に住む移民がアリアスを使って定期的に行う移民の送金履歴や雇用の状況などを総合的に判断して信用審査を行い、母国の地元の金融機関による移民の家族への融資を支援したのだ。
このようにして人・金の移動が活発になり、現在までにも数々の成果が生まれてきているそうだ。貧困層や発展途上国へのサービスにインターネットを使うことが、一つの発想の転換でもあったと言えるだろう。発想の転換で新しい市場を切り開き、一つのソリューションで二重、三重の効果を生み出す。そんなダイナミズムが、全編を通して伝わってくる熱き一冊だ。
※本書は、編集者の三田様より献本いただきました。三田様、どうもありがとうございました。
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