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新刊ちょい読み 2012/2/11~2/20

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われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る

われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る

  • 作者: 米長 邦雄
  • 出版社: 中央公論新社; 初版版 (2012/02)
  • 発売日: 2012/02

日本将棋連盟会長の米長邦雄氏が、コンピュータ将棋ソフト「ボンクラーズ」に負けたということが話題になったのは、つい先月の1月14日のことだ。それからまだ1ヶ月も経たないというのに、早くも対局した本人によって、その内幕の全貌が明かされた。それが本書『われ敗れたり コンピュータ棋戦のすべてを語る』である。

決戦の裏側に隠された興味深いエピソードが、いくつか挙げられている。一つ目は、対戦時に将棋盤の向う側に誰が座ったのかということである。これは米長氏の強い意向により、米長氏自身を強く尊敬している人の中から選ばれた。対面(といめん)に誰が座るのかということは、勝負を左右するくらい大きなことであるそうだ。

二つ目は、米長氏が出がけに奥さんに「私は勝てるだろうか」と聞いたときのこと。はっきりと「あなたは勝てません」と断言されたのである。「なぜ勝てないんだ」と問い返すと、「あなたはいま、若い愛人がいないはずです。それでは勝負に勝てません」と言い放ったというから驚く。げに恐ろしきは、勝負師の妻なり。

はたして妻の予言通り、米長氏は敗戦を喫する。その分かれ目は、一手目の6二王にあった。奇策とも評された一手目を放った米長の狙いは、一体どこにあったのか? そして印象的なのは、米長氏による対局後の以下のコメントだ。

我々は、コンピュータソフトがプロを負かすのか負かさないのか、そういうことではなく、最善手を求めていくことが我々にとって一番大切なことだと考えています。よってそれが人間であるかコンピュータであるかということはまったく関係ありません。

一見古風で閉鎖的な印象を受ける将棋の世界だが、今回の対局は将棋界全体としても最善手を打ったのではないかと感じる。実に爽やかな読後感だ。
(※HONZ 2/13用エントリー

超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか

超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか

  • 作者: リチャード・ワイズマン、木村 博江
  • 出版社: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/2/11

その科学が成功を決める』などの著書でおなじみ、リチャード・ワイズマン博士の最新刊。タイトルで誤解される向きもあるかもしれないが、超常現象の信憑性を検証するという類の話ではなく、あくまでも超常現象には懐疑的なスタンスだ。そのうえで、人がなぜこうした不思議な現象を体験するのかという点にフォーカスを当てている。

非常に興味深い内容が盛りだくさんで、「ちょい読み」どころか「ぐい読み」しかも「一気読み」なのだが、それぞれの章の内容が多岐に渡るため、一番面白かった6章の「マインドコントロール」のみをご紹介。

1978年、アメリカのカルト教団「人民寺院」での出来事だ。教祖ジム・ジョーンズの呼びかけに応じて約900人の信者たちが集団自殺を図った。このときに撮影されたビデオテープを見ると、信者の大半が自ら進んで命を断ったのだという。一体なぜこのようなことが起きたのか?

本書によると、マインドコントロールの要素は4つである。一つ目は、段階的に少しずつ帰依の度合いを深めさせていくこと。二つ目は、グループから不協和音を排除すること。三つ目は奇跡の力。そして四つ目が自己正当化。最後の自己正当化とは、奇妙な儀式や苦痛をともなう儀式に参加した信徒は、自分の苦しみを正当化するために、このグループには価値があると前向きに捉えることを指す。

とりわけこのメカニズムが面白いのは、いわゆるマインドコントロールというものとビジネス界における数々の伝説のプロセスで為されたこととの差が、紙一重だなと思う要素も多分に含まれているからだ。

それでなくても、特に一点目の「段階的要請法」と呼ばれる手法には気をつけていただきたい。周囲を見渡して、最初は一日一冊の本の紹介だったはずなのに、いつのまにか「新刊ちょい読み」、「マニアックな三冊」などとヒートアップしていってるサイトはないだろうか?皆さん、どうかお気をつけなすって!
(※HONZ 2/17用エントリー

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