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【書評】『赤とんぼはなぜ竿の先にとまるのか?』:子供の心、科学の目

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著者: 稲垣 栄洋
東京堂出版 / 単行本(ソフトカバー) / 225ページ / 2011-08-12
ISBN/EAN: 9784490207415

「童謡・唱歌を科学する」という副題のついた一冊。この狙いが見事なまでにはまっており、鮮やかだ。例えば、表題にもなっている「赤とんぼ」。その歌詞の四番に、こんな一節がある。

「夕焼け小焼けの赤とんぼ とまっているよ 竿の先」

そもそも赤とんぼは、なぜ竿の先に止まるのか?それは本書によると、赤とんぼが変温動物であるということと関係があるそうだ。秋になって気温が低くなると、赤とんぼは太陽の光を浴びて体温をあげなくてはならない。その際に、できるだけ広い面積に日光を当てて効率よく体温を上げたいという欲求が発生する。そのため、横腹と日光の角度を調整しやすい竿の先のようなものに止まる必要があるというのだ。

小さなお子さんを持つ方にとっては、必読の書であるだろう。大人が当たり前のこととして受け止めがちな童謡の歌詞、その何気ないところに一撃を加えてくるとしたら、それは子供である可能性が高い。純粋な子供は、生まれながらにして科学の心を持っているのである。子供の「なんで?なんで?」攻撃に、「それはね、これこれこうだからよ、キリッ」と答えることができれば、一目置かれることは間違いない。もちろん、大人が自分自身のために読むことも有用だ。自分の目がいかに濁ってしまったかを、再確認することができる。

例えば、童謡「ホタル」の話。「ほう ほう ほたる こい」という歌詞の「ほう ほう」はホタルの点滅のリズムを指しているという。また、実際に蛍は甘い水を好む傾向にあり、甘い水を飲むと寿命が長くなるという事実も報告されているそうだ。そして、ここからの話の展開が奥深い。「ゲンジボタル・ヘイケボタルという名前の由来」「ホタルの恋愛術」「ハザードランプにホタルは集まるのか」「どうしてホタルは光るのか」とエンジン全開で突っ走る。そこで終わるかと思いきや、さらに唱歌「蛍の光」へと話は移り、「蛍の光で本は読めるか?」「失われる蛍の光」「蛍の光のゆらぎ効果」と畳みかけてくる。ちなみに、蛍の光は強いもので2~3ルクス。ゲンジボタルを二千匹集めたら、新聞が読めるくらいになるそうだ。

このように本書では、童謡が科学的に正しいのかを徹底的に検証しながらも、決して夢を壊していないというところが好感の持てるところだ。これは著者の筆力によるところもあるのだが、童謡そのものがいかに正しく情景を切り取っていたのかということでもある。

そんな童謡の数々、最近では歌詞の難解さを理由に教科書から消えつつあるという。そして、著者の危機感もそこにある。言われてみれば、自分の世代でも「カラスなぜ鳴くの?」と言われれば、「カラスの勝手でしょ」という替え歌の方がデフォルトとなっており、危うい印象だ。願わくば日本の原風景として、歌い継がれていって欲しいものである。

本書で紹介されている唱歌は、全部で14曲。その詳細は、以下の目次にてご確認いただきたい。さらに目次を見て、気になって気になって仕方がなくなってしまった方は、ぜひご一読を。

◆本書の目次
蝶々はなぜ菜の葉に止まるのか?   唱歌「ちょうちょう」のひみつ
おぼろ月夜は満月か?        唱歌「朧(おぼろ)月夜」のひみつ
小焼けってなんだ?         童謡「夕焼け小焼け」のひみつ
「七つ」ってどんな意味?      童謡「七つの子」のひみつ
赤とんぼはなぜ竿の先にとまるのか? 童謡「赤とんぼ」のひみつ
ホタルは甘い水が好きなのか?    童謡「ほたるこい」のひみつ
秋が真っ赤になる理由        唱歌「まっ赤な秋」のひみつ
ホトトギスは垣根にやってくるのか? 唱歌「夏は来ぬ」のひみつ
キリギリスはなんと鳴く?      唱歌「虫のこえ」のひみつ
角出せの「角」って何?       唱歌「かたつむり」のひみつ
黄金虫はどんな虫?         童謡「黄金虫」のひみつ
池に落ちたどんぐりはどうなるのか? 童謡「どんぐりころころ」のひみつ
春の小川はどこへ行く        唱歌「春の小川」のひみつ
うさぎはやっぱり美味しい?     唱歌「ふるさと」のひみつ

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