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【書評】『砂糖の歴史』:砂糖は甘さを取り戻せるか?

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河出書房新社 / 単行本 / 513ページ / 2011-05-25
ISBN/EAN: 9784309225449

本を読んでいて面白いと感じる時は、書かれている題材に、その反対の概念を見出した時だったりする。例えば、古いものの中に新しいものを見出すとそれは面白いし、ミミズのような小さなものに、地球の歴史を感じたりする時も同様だ。

その反対の概念が、もはや分離不可能なくらい溶け込んでいるのが、本書『砂糖の歴史』である。甘い蜜に群がる人間の残酷さを取り上げた題材は多いが、その中でも砂糖のほろ苦さは群を抜く。著者は西インド諸島の小島アンティグアにサトウキビを栽培するために移住した先祖にルーツを持つ人物。五百頁を超える歴史の記述には、著者の執念すら感じる力作である。

◆本書の目次
第1部 西洋を征服した東洋の美味
第1章 「砂糖」王の台頭
第2章 砂糖の大衆化

第2部 黒い砂糖
第3章 アフリカ化されたサトウキビ畑
第4章 白人が創り出した世界
第5章 砂糖が世界を動かす

第3部 抵抗と奴隷制廃止
第6章 人種差別、抵抗、反乱、そして革命
第7章 血まみれの砂糖 - 奴隷貿易廃止運動
第8章 怪物退治 - 奴隷制と年季奉公制
第9章 キューバとルイジアナ

第4部 甘くなる世界
第10章 砂糖農園の出稼ぎ移民たち
第11章 セントルイスへ来て、見て、食べて!
第12章 砂糖の遺産と将来

砂糖の歴史において、世界地図を塗り替えるほどの革命的な出来事は過去に二回あった。一つ目はコロンブスの新大陸の発見の時である。その当時、王侯貴族の特権としてたしなまれていた砂糖は、徐々に下の階級へと浸透し始めている時期でもあった。コロンブスがイサベル女王にちなんで「イサベラ」と名付けた新しい入植地でサトウキビを植えさせると、驚くほどたやすく根付いて生長したという。

これに味をしめたコロンブスは原住民を奴隷化し、サトウキビ栽培を始める。しかしタノイ族をはじめとする原住民は、大虐殺や病気などで絶滅寸前に追い込まれてしまうのだ。その代替手段としてアフリカ人を連れてきたのが、悪名高き「北大西洋三角貿易」である。コロンブスと原住民の出会いが、その後五百年における重要な事柄すべての進展を方向づけたと言われる所以でもある。

二回目の出来事は、十八世紀のイギリスの出来事である。きっかけは、一人の女性が紅茶に一かけらの砂糖を放り込んだという些細なことであった。しかし、この紅茶と砂糖の出会いは、またたくまにイギリス中に広まり、人びとの味蕾を征服した。こうして始まった砂糖のプロレタリア化が、砂糖の需要を加速度的に促進し、人口分布や経済、環境、政治、文化、倫理といったさまざまな分野に多大な影響を与えていったのである。

本書の見どころは、なんといってもその生産を支えたサトウキビ畑を巡る人間模様にある。労働者、農園主、イギリスでの管理側の模様、それぞれが圧倒的な分量とリアリティを持って語られている。もちろんそれが、ほろ苦い記述であることは言うまでもない。

ある奴隷が大樽に入ったラム酒に傷ついた手を浸すのを見て、見学者の一人が「お前の血がイギリスで飲まれることになるんだぞ」と叱りつけた。すると奴隷は、「わしらが作った砂糖を食べるのは、わしらの血を飲んでいるようなもんだと思わないかね、旦那」と言い返した。

これらの悲惨な出来事は、黒人だけにとどまる話ではない。奴隷制が廃止されて以降も、「年季奉公」という実質的に奴隷制度と変わらない制度がはびこり、インド人を中心に、中国人や日本人も憂き目にあっている。また、本書の後半で紹介されている、砂糖のステータスに関する言及は注目に値する。糖蜜を最底辺、精製した白砂糖を頂点として、その間にさまざまな等級の褐色の糖が無意識に格付けされていたという。砂糖の歴史は、人種差別の歴史でもあるのだ。

その後、現代における健康問題をはじめとして、逆風続きの砂糖ではあるが、明るい話題として、ブラジルにおけるエタノール燃料の原料とされている話なども紹介されている。生産における暗黒の歴史と、消費における楽しいひと時、その双方を担って大きく世界を変えてきた砂糖。その未来に、甘さを取り戻すことはできるのだろうか? 

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