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【書評】『検証 東日本大震災の流言・デマ』:ワクチンと検証屋

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著者: 荻上 チキ
光文社 / 新書 / 204ページ / 2011-05-17
ISBN/EAN: 9784334036218

いつの時代においても、災害と流言・デマは密接な関係にある。事実、関東大震災の時にも「朝鮮人が井戸に毒を入れた」という流言が広がり、多くの人々が殺されたという歴史が残されている。しかし、今回の東日本大震災の流言・デマは、情報技術が浸透して以降に起こったいう点に大きな違いがある。それゆえ、災害流言の拡散速度や規模が、これまでとは比較にならない大きなレベルのものであったのだ。

本書は今回の東日本大震災における流言やデマの実例を取り上げ、その対処法をまとめた一冊。流言やデマがなぜ起きるかというメカニズムに着目するのではなく、必ずデマは起きるということを前提に、その影響を最小化することを目的として書かれている点が、最大の特徴である。

◆本書の目次
序章 なぜ、今、流言研究か
1章 注意喚起として広まる流言・デマ
2章 救援を促すための流言・デマ
3章 救援を誇張する流言・デマ
4章 流言・デマの悪影響を最小化するために

厳密には、デマと流言は違うものであるそうだ。デマには何某かの意図があるのだが、流言にはそれがないのである。そういった意味で、本書で紹介されている事例には圧倒的に流言が多い。それにしても、いったい何を狙いとしているのか、皆目見当のつかないものが圧倒的に多い。

◆本書で紹介されている、今回の震災における流言・デマの一例
・有害物質の雨が降る?
・放射性物質にヒマワリが効く?
・トルコが日本に100億円の寄付?
・ヨウ素入りのうがい薬は放射性物質に効く?
・日本では物資の空中投下が認められていない?

流言・デマの最大の罪は、救命のためのチャンスロス(機会損失)を生むということにある。しかも、善意に基づく人をも、その悪事に加担させるという点で、罪は重い。その被害を最小限におさえるものとして本書で紹介されているのが、「流言ワクチン」という考え方だ。

流言やデマについては、時代や国が変わっても、そのパターンにあまり変化のないことが分かっているという。それゆえ、あらかじめ過去の事例を知っておくということが、いざそれらに直面した時に既視感を抱きやすくするという対処法につながる。このワクチンの役割として、本書ではさまざまな事例が紹介されている。

もう一点興味深いのは、「検証屋」と呼ばれる人たちに関する論考である。流言が広がる過程において「うわさ屋」が存在する一方で、中和情報を対抗して流す「検証屋」としての役割を担う人たちも登場し、今回の震災でもその活躍は目立っていた。その際に、最も注意すべきなのは、常に検証屋であり続ける人はいないという事実を正しく認識することにある。ここを間違える人達が、「検証屋」に過剰な期待や偏見を抱き、やがて攻撃を仕掛け始めるという事態を引き起こすのだ。

「検証屋」にも得意、不得意があり、特定の分野に関しては能力を発揮できたとしても、それ以外に関しては不得意な可能性もある。そのバイアスを、情報の受け取り手がきちんと把握できるかどうか。情報の流れの多様化は、同時にリテラシーの多様化も求めるということなのである。

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