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【書評】『儲けたいなら科学なんじゃないの?』:知能と知性

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朝日新聞出版 / 単行本 / 240ページ / 2011-03-18
ISBN/EAN: 9784023309234

一般市民と科学の関わり方は、国によってさまざまである。そのため、科学にまつわるコミュニケーションも、国によって若干ニュアンスの違いがあるという。宗教や人文主義に根ざす反科学的思想の存在する欧州では「対話」、キリスト教根本主義による進化論の否定など非科学が根強く存在する米国では「理解」、科学そのものへの関心が低い日本では「共感」というわけだ。日本のような無関心層の多い場合には、「キャラの立っている人物が、学問的な正確さにこだわらず、おおづかみに世界観を語る」というのが、一つの特効薬になりうるそうだ。(※『科学コミュニケーション』岸田一隆 著、平凡社より引用)

そういった観点から考えると、本書は日本における正しい科学コミュニケーションを具現化した一冊とも言えるだろう。堀江貴文、成毛眞という二人の元IT会社社長による対談は、スタートからエンジン全開で宇宙まで突っ走る「格好の特効薬」でもある。これを「大人げない対談」の一言ですませたくはない。

◆本書の目次
第一章:ホリエモンの宇宙旅行計画Ⅰ 開発の現場から
第二章:ホリエモンの宇宙旅行計画Ⅱ 宇宙進出の夢
第三章:自動車とテレビ、そして未来の都市
第四章:脳と意識
第五章:生物学的進化と個体の長寿化
第六章:食料とエネルギーの未来
第七章:科学技術とどうつきあうか
宇宙旅行、自動車、テレビ、脳、アンチエイジング、食料、エネルギーと話は広範囲に広がっていくのだが、その本質は前半の宇宙の話にあるのではないだろうか。著者自身が述べているように、ネットの話などは、この二人をもってしても、探せばどこかで聞けるような話になってしまう。しかし、宇宙の話はそれが正しいのかどうかもよくわからずに、ただただ圧倒される。参入人口の少ない領域とは、こんなにも自由で可能性があるのかということに気付かされるのだ。

一方後半の見どころは、二人の意見の食い違いにある。同じく科学好きで、意気投合している二人だが、科学に向き合うスタンスは大きく違う印象を受ける。実用的であり、合理的であり、直接的な向き合い方の堀江氏に対して、思索的であり、批判的であり、洗練されたスタンスをとる成毛氏。経験や実体験に基づいた切り込みをする堀江氏に、「僕はそう思わないな、それよりも・・・」と成毛氏が
ことごとく切り返すのだ。知能と知性の違いとでも言ったらよいだろうか。一見似ているようで、その様はアメリカとヨーロッパくらい違う。しかし、例えどのような領域に話が及ぼうとも、思考停止に陥ることなく、きちんと自分の結論を出す二人の姿勢には感服する。

本書を自分の意思で購入した人にとっては、内容のディテールをクソ真面目に追うような本ではないだろう。このご時世に、少しばかり中身を確認したにもかかわらず、本書を購入するような人は、そもそもが少々の変わりものであることに間違いはない。そういう人がやるべきことは、科学に興味のなさそうな周囲の人に全力で勧めること、これこそが本書の正しい使い方ではないだろうか。


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