【書評】『デザインの骨格』:わかっている物を捉えなおす
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著者:
単行本(ソフトカバー) / 280ページ / 2011-01-29
/ ISBN/EAN: 9784822264703
我々の身近にあるさまざまな工業製品、生き物の仕組み、日常の出来事からトリビアネタのようなものまで、デザインという切り口で語るエッセイ集。著者は元・日産自動車のデザイナー。現在では腕時計、調理器具から鉄道車両、ロボットのようなものまで幅広くデザインしている方である。
著者は本書を書く際に、物理学者・寺田寅彦のエッセイのようなものを目指したそうである。物理学と論理をベースに日常のことから世界情勢まで綴った寺田寅彦。その原点には批判精神というものがあり、その影響は本書においても色濃く反映されている。
◆本書の目次
第1章:アップルのデザインを解剖する
第2章:デザインを科学する第3章:コンセプトを形にする第4章:スケッチから始める第5章:モノ作りの現場から考える第6章:人と出会う第7章:骨を知る第8章:人体の秘密を探る第9章:漫画を描く、漫画を読む
言語論理学の優秀な人間ほどしばしば、「かたち」を見ていないそうである。「なるほど、わかった」と判断したとたんに、そのものを見なくなるからである。著者は「絵を描く訓練はわかっている物をあえて捉えなお空作業です。」と主張する。また、下記の一文も非常に印象的であった。
絵を描く事は、ものの輪郭を描くことではない。重要なのは向こう側にあって見えていないものや、中心軸のような仮想の線を描くこと。平野敬子さんは、小学生に上がる前、輪郭を描きなさいという先生に「世界には輪郭なんてない」と言って抵抗したそうです。「輪郭は物のかたちを理解するときに生じた抽象作用の結果であって、世界に実在する線ではない」。
この「捉えなおし」という視点で日常のものを切り取っていく本書は、デザインのプロセスそのものが可視化されているようでもあり、見ていて飽きがこない。具体的な事例として紹介されているテーマは以下のようなもの。
◆本書で紹介されている印象的なエッセイ
・スティーブジョブスの台形嫌い・年輪は外側に作られる・suicaの読み取り角度はこうして決まった・細身でしなやか武道の達人・ミニカーは実車の縮尺ではない・ジャンボジェット機に込められた美意識・走ることは跳ぶこと
当たり前のように周りに存在している日常のデザインも、開発当時にはまだ誰も見たことのなかったものであり、デザイナーにとってその行為は未来をデザインするということであったはずだ。そこに内在するロジックや美意識を振り返ることで生まれる「ハッ」とする思いの数々。日常とは、こんなにも沢山の意思に囲まれていたのかと気づかせてくれる。
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