【書評】『キュレーションの時代』:キュレーションの交差点
»
著者:
/ 新書 / 314ページ / 2011-02-09
ISBN/EAN: 9784480065919
「キュレーション」 ― 無数の情報の海の中から、自分の価値観や世界観に基づいて情報を拾い上げ、そこに新たな意味を与え、そして多くの人と共有すること
昨年、あらゆる言葉に「ソーシャル」という接頭語が付いていったように、今年はこのキーワードが世間を賑わすことになるのかもしれない。本書は、その「キュレーション」をテーマに、ITジャーナリスト・佐々木俊尚氏が書き下ろした渾身の情報社会論である。
◆本書の目次
プロローグ:ジョゼフ・ヨキアムの物語第一章 :無数のビオトープが生まれている第二章 :背伸び記号消費の終焉第三章 :「視座にチェックインする」という新たなパラダイム第四章 :キュレーションの時代第五章 :私たちはグローバルな世界とつながっていく
著者と「キュレーション」という言葉の関係は、実に不思議である。キュレーターという職業が、美術館・博物館の学芸員として存在することからも分かるように、この言葉自体は著者が開発したものではない。しかし、この言葉に意味づけを行い、流通させたことに対する著者の役割は、非常に大きい。すわなち、佐々木氏こそが「キュレーション」のキュレーターという関係なのである。
また本書の構成にも、非常に興味深いものがある。事例として取り上げている題材、それを捉えるための概念が、それぞれ二軸のキュレーションによって成立してるのだ。まさに「キュレーションの交差点」といった全体像である。具体的には以下のようなもの。
・事例の題材としてキュレーションされているものジョゼフ・ヨギアム(画家)、エグベルト・ジスモンチ(アーティスト)、『ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(映画)、田中眼鏡店(眼鏡屋)、フードトラック(屋台)、一座建立(茶道)、月明飛錫(ブログ)、フィロ(サービス)、フードポッティング(サービス)、ロケーションレイヤー(サービス)、シャガール(画家)、ヘンリー・ダーガー(作家)、八島孝一(美術家)、アロイーズ・コルバス(画家)、田中悠紀(画家)、『彼女が消えた浜辺』(映画)、青花(染付)・考え方、概念としてキュレーションされているものビオトープ、アンビエント化、つながり消費、視座、チェックイン、キュレーション、セマンティックボーダー、ホロニックループ、一回性、ポストグローバル
上記のキーワードだけを抜き出して見ると、難解な本のように思えるかもしれない。しかし、それぞれの内容については本書内で丁寧に意味づけがされており、それこそが「キュレーション」の本質でもある。また、本題の説明に入る前に、三章にも及ぶ分量を背景の説明に割いているところも注目に値する。「キュレーション」というものが飛び交う土台の変化が、それだけ大きいということを意味しているのであろう。
本書は、マスコミ人にとっては、やや耳の痛くなるようなことも書かれていると思う。しかし、そのような表層的な部分に着目するのは得策ではない。本書に書かれている「キュレーション」とは、メディアや情報流通のみに留まるような概念ではないのだ。「キュレーション」とは、人間関係でもあり、生き方でもあり、哲学でもある。自分の視座で本書を捉えるならば、「自分らしくあれ、自由に生きろ!」というメッセージである、と意味づけしたいと思う。心が躍る一冊である。
SpecialPR