【書評】『日本人が知らないウィキリークス』:匿名による透明社会が世界を変える
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著者: 小林 恭子 白井 聡 塚越 健司 津田 大介 八田 真行 浜野 喬士 孫崎 享
洋泉社 / 新書 / 2011-02-05
ISBN/EAN: 9784862486936
複数の専門家による多角的な視点からウィキリークスを分析した一冊。ジャーナリズム、メディア、技術、外交、公益、政治など、様々な角度からの論考は、いずれも簡単に結論が出るようなものではないが、ウィキリークスによってもたらされる時代がいかなるものかを、明解に解き明かしている。
◆本書の目次
第1章:ウィキリークスとは何か<塚越健司>第2章:ウィキリークス時代のジャーナリズム<小林恭子>第3章:「ウィキリークス以後」のメディアの10年に向けて<津田大介>第4章:ウィキリークスを支えた技術と思想<八田真行>第5章:米公電暴露の衝撃と外交<孫崎亨>第6章:「正義はなされよ、世界は滅びよ」<浜野喬士>第7章:主権の溶解の時代へ<白井聡>
本書では、ウィキリークスの特徴をあらわす、いくつかのキーワードが提示されている。
1.科学的ジャーナリズム「ニュース記事をクリックし、元となった文書を見ることができる。記事の内容が真実かどうかを自分で判断して、ジャーナリストが正確に報道したかを確かめることができる。」こと。つまり、情報の受け手の進化によって、一次情報への注目が集まり、プロセスも可視化されていく、新しいジャーナリズム空間が形成されつつある。
2.無国籍のネットメディアウィキリークスには特定の本拠地が設定されておらず、仮に本拠があったとしても、一時的なものにすぎない。それは、無国籍のウィキリークスが、特定の国の「国益を度外視して情報を公表できる」存在であるということを意味する。
3.純粋公益従来型の公益は、何が正義で、何が公益なのか、ということがはっきりしていた。しかし、ウィキリークスに見られるようなハイポリティックスに関するリークの場合、何が正義で何が公益なのかは明確ではない。そこで、まず行為ありき、それから正義や公益がついてくるという新しいタイプの公益の構造が生み出されつつある。
そして、これらの特徴を持つウィキリークスは、高レベルの情報源秘匿技術を元にした安全なリークツールと、信頼性を確保するための既存メディアとの協働を武器に、新しい社会へと導いていったのである。
ただし、ウィキリークスによってもたらされている新しい時代が、通過点に過ぎないというのも事実であろう。リークを待つというスタンスでは、全ての機密を覆うことはできず、一つのモジュールにしかすぎない。また、ウィキリークスの存在によって、機密文書のあり方も、ハイコンテクスト化が進むなどの防御策が講じられ、”いたちごっこ”が当分続ていくことであろう。
しかし、ソーシャルメディアの普及に見られる「実名による社会の透明化」と時を同じくして、「匿名による社会の透明化」が起こっているのは、偶然の一致とも思えない。社会は確実に、透明な方向へと大きく動き始めているのだ。
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