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【書評】『ニッポンの穴紀行』:心の穴

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著者: 西牟田 靖
光文社 / 単行本(ソフトカバー) / 324ページ / 2010-12-16
ISBN/EAN: 9784334976347

ノンフィクションライター西牟田靖氏による興味深い一冊。日本各地の廃墟や歴史的遺構を中心に「穴」という空間に限定した旅の記録である。北は北海道から南は沖縄まで、12か所の「穴」は、いずれもディープさに溢れ、日本の近代史を雄弁に物語る。

◆本書で紹介されている12か所の「穴」
第一章 軍艦島(長崎県) --------捨てられた集合住宅と穴
第二章 釜石鉱山と東北砕石工場跡(岩手県) --------宮沢賢治ゆかりの穴
第三章 新内隧道と狩勝隧道(北海道) --------開拓の苦闘が印された穴
第四章 国立国会図書館(東京都) --------書庫になっている地下8階までの穴
第五章 滋賀会館地下通路(滋賀県) --------文化施設がコラボする宙ぶらりんの穴
第六章 人形峠夜次南第2号坑(岡山県) --------怪しい光を発する希望の穴
第七章 黒部ダム(富山県) --------高熱隧道とクロヨンの穴
第八章 日韓トンネル(佐賀県) --------全長200キロの穴
第九章 吉見百穴と巌窟ホテル(埼玉県) --------親子3代の夢の穴
第十章 諏訪之瀬島(鹿児島県) --------ヒッピーと巨大資本の抗争史
第十一章 友ヶ島第3砲台跡(和歌山県) --------使われなかった要塞の穴
第十二章 糸数壕と山城本部壕(沖縄県) --------沖縄戦の傷痕が残る穴
いずれの「穴」も人工的に作られたものであり、そこに関わってきた大勢の人々がいる。著者は、その人々の気持ちにもしっかりと寄り添い、何らかの理由で光の当たっていない部分にも、クッキリと光を照らしてくれている。そこに見えるのは、無念さ、古い価値観、虚栄心など思わず目の逸らしたくなるものから、活気、エネルギーへの希求など、実にさまざまである。「穴」の話を読むにつれて見えてくるのは、自分の無知さと、そこに関わった人々の”心の穴”の中である。

多くの「穴」に共通しているのが、人権などという意識が薄かった時代に、多くの人命の犠牲と引き換えに作られたものであるということだ。その当時、”個”は弱いものであったかもしれない。しかし、社会には未来への大きな希望があった。そして、我々は今、その未来の真っ只中にいる。”個”の時代などと言われてはいるが、今の我々の社会は、当時の人たちに胸を張れるようなものなのだろうか。


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