複雑なのにはワケがある
新しい作品を演奏するとき、楽譜に書かれている複雑なリズムや音形を見ると「これは何か深い意味がある」と思います。
2012年1月28日合唱団コール・リバティストの稽古で、中田喜直作曲の「海の構図」を勉強しています。
この作品の歌詞、詩人の小林純一さんの感覚的な詩が素晴らしく、中田さんは、言葉の韻や響きを最高に生かした音をつけてくださっています。
組曲の中の最終曲「神話の巨人」では、繰り返される5連音符と6連音符のリズムに、微妙な音程の旋律が書かれていて、歌う方は四苦八苦してしまいます。
しかし、中田さんがわざわざ複雑なリズムを用いるのはわけがあるのです。
たとえば、話をしているときに強調したい言葉があったとする。そういうとき、強調したい言葉を強くゆっくり話しますよね。
6連音符は1拍の中に6個の音を入れ込みます。5連音符は1拍の中に5個の音を入れ込みます。そうすると、5連音符の方が少しゆっくりなわけです。
そう考えて良く見ると、5連音符の方には確かに強い意味の言葉が書かれているのですよね。
それをふまえて言葉に感情を込めてみると、今まで歌いにくかった5連音符がしっくりきます。この感覚を覚えてしまうと「もう5連音符でなくてはだめだ」というところまでいってしまうほどです。
作曲家は単純に難しくしようとしているわけではなく、音楽の意味をよく考えると、難しく複雑なのには必然性があるのです。
最初に楽譜を見るときに、当然リズムや音程は確実にとれるように勉強しなければなりません。そうしないと、音が合わなくなってしまい、アンサンブルができないからですね。
でも、ただやむくもに一生懸命練習するだけではなく、そこにある意味を考えて感情を重ねてみると、意外にすんなり腹におちて歌いやすくなります。
この日は、5月13日浜離宮朝日ホールでの演奏会で指揮をしてくださるマエストロをお招きしての稽古でした。
1月15日の鎌倉芸術館で行われた演奏会本番以来でしたが
「君たちの演奏は東混(とうこん=プロ合唱団の「東京混声合唱団」)の響きに似ていると評判だったよ」
と絶賛してくださいました。
実は私も会場で顔見知りでもない方に突然お声がけいただき、同じことをおっしゃっていただけたので、よほど良かったのでしょう。
日本合唱界の頂点でもある、あの東混の響きに似ているとはすごいことです。
嬉しいですね。
稽古では「海の構図」と「都会」から「子守唄」を歌いました。
「子守唄」は苦手な曲だったはずなのですが、本番を終えたせいでしょうか。「海の構図」と比較できたので分かりやすかったのですが、響きが全然違うのですよね。
実力とは関係なく「上手になるには100回の練習より1回の本番」ということを以前より言っていましたが、まさにそのように感じました。
夢のような響きのホール、浜離宮まであと4ヶ月半。
皆さんの透明な音が鳴るのを楽しみにしています。