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フランス料理・恵比寿「マッシュルーム」山岡昌治シェフに聞く 【第二回】フランスでの闘い 男をも凌ぐ熱いパッション

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昨日に引き続き、恵比寿「マッシュルーム」フレンチレストラン、山岡昌治シェフへのインタビュー第二回です。
 
フランス料理のシェフになることを夢見て、1984年、山岡シェフはフランスに渡りました。当時はまだ日本人シェフの評価はそれほど高くはなく、行ってもどうなるか分からない状況だったそうです。しかし「モノになるまで帰らない」すごい決心でした。
 
パリの名店「トゥール ダルジャン」に入ったときは、前菜担当だけで7人。競争が激しく、仕事の取り合いでした。
山岡シェフはそこで、デザート、前菜、魚のポジションを担当。鍋さえも奪い合いになるため、人より先に行って仕込みを行います。
フランスの洗い場は、黒人などがやっていて完全な分業制。仕込みは鍋がないと出来ないため、山岡シェフは彼らと仲良くなって優先的に鍋を回してもらっていました。
日本人は仕事を見せないと仕事をもらえないのです。同じポジションに人がいれば、自ら仕事を取りに行かねばなりません。
 
客が優雅にディナーをとっているその裏で、料理人たちの熾烈な戦いが繰り広げられていたのです。

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フランスの地方にあるレストランは夏が繁忙期。夏の間3ヶ月だけ山岡シェフはボルドーのロワイヤルにあるレストランのヘルプを頼まれました。
 
行ったらいきなり「肉のポジションをやれ」と言われます。肉は一番のメイン。そこにはすでに肉担当の女性がいました。二人で肉と野菜の付け合せどちらをやるかでも揉めます。野菜の付け合せをするということは完全にサブになるため、先に担当していた女性は一歩も引かないのです。
あるとき山岡シェフは「はっきり言っておく。お前より出来るからメインはオレがやる。お前はサブでやれ」ときっぱりと言い渡しました。
元々、フランスの女の子は男と対等で気が強い。「体力で負けるなら、手の速さや物覚えの良さで勝つ」というほど。
その女性はかなりムカーッとしていた様子でしたが、サブをやることを承知したのです。
 
そこは100席もある大きなレストランでした。それが毎日満席となります。肉は鴨、羊、牛、鳩などで、しかも全て焼き方に注文が入る。フランスでは「ブルー ブルー」と言ってレアよりさらにレアな状態から、ウェルダンよりさらに火が入る状態まで、7段階くらいあり、それを全て注文どおり焼き上げなくてはなりません。大忙しで厨房はまさに戦場。
オーブンの中は、すごい量の肉や付け合せの野菜がごちゃごちゃに入っていて、先に入れた奥のものから取り出すので、料理人の腕は火傷ですぐに刺青のような状態になります。
 
そんなとき、付け合せ担当の女性が、なんとオーブンから取り出したばかりのフライパンを素手で持ってしまったのです。「ジュー」という音がし、肉の焼ける臭い。女性は「ウーッ!」と気合を入れ、その瞬間、目から涙がツーッと流れました。しかし気丈に、その場で手にタオルを巻きつけ仕事を続けたのです。普通なら、仕事をしないで手当てに行って休むような大火傷。
 
「そのとき彼女を認めた。」
 
「すごいと思った。それだけ自分に自信があって本気で負けないと思っていたんだということが分かった。生意気なことを言ってても当然だ。」
 
フランスにいれば辛いこともある。悩みもある。しかし「ジュー」という音を聞いて、悩んでいる場合じゃない、自分ももっと根性をいれてやらなければいけない、吸収できるもの見れるものは何でも積極的に勉強していかないと、と思ったそうです。

「きっといい料理人になったんじゃないですかね」と山岡シェフは言います。
 
いつか自分が上に行き、シェフになるという志があるからこそ、それだけ料理という仕事にかけているからこその主張。
力の世界、表現する世界に、男だから、女だから、などは関係ないのです。女だって見せていかなくてはならない。人に夢と幸せを与える一方で、厨房という戦場には、力と力、プライドとプライドの激しいぶつかりあいがあったのです。そこでしか磨かれないものがあり、そこで勝ち残ったものだけが上に行き栄光を手にするのですね。

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