『朝のカフェで鍛える 実戦的マーケティング力』が生まれるまで(10):最初の5日間、何も書かずに何を唸っていたのか? (09年4月)
『朝のカフェで鍛える 実戦的マーケティング力』が生まれるまでの経緯を連載でご紹介しています。連載バックナンバーは、こちら。
前回書きましたように、GWの最初の5日間は何も書かず、朝から晩まで調べ物をしたり、自宅の机に座ってウンウン唸っていたり、近所のカフェに行って長時間座りながら腕を組んで考えて急にパソコンにアイディアをメモ書きしたりして、何も書きませんでした。
一通りストーリーが出来上がっても、何となくまだハラで納得できず、手を付けられなかったり。
周りから見ればかなり滑稽な状況だったかもしれません。
そう言えば、9月5日にNHKの番組「プロフェッショナル」で、「バガボンド」の作者である井上雄彦さんの仕事ぶりを紹介していました。
マンガでは、最初に「ネーム作り」という作業があります。コマをどのように割り振って、どこで何を書くかを決めていく作業です。
番組では、井上さんがカフェをはしごしながら、ネーム作りをしていく様子が描かれていました。
登場人物がどのような人生を歩み、何を考え、どういう心持ちなのか、向き合う作業です。井上さんは、ここで毎回苦しみ抜きます。
天才・井上雄彦さんとは比べるべくもありませんが、私がGWの前半で行ったのも、このネーム作り作業と同じでした。
ふり返ってみると、私は、今回のように本を書いたり、講演資料を作成したり、あるいは企画書を作る際には、いつも同じパターンで進めています。
完成まで全体で100の時間を使えるとして、私の場合は最初の30(場合によっては50)は何もアウトプットを出しません。
色々な資料を何回も何回も見直し、頭の中に次々と覚え込んで、「あーでもない」「こーでもない」と考えてばかりです。
徹底的に頭に詰め込んだ後は、全く別のことをして一旦忘れます。
モノの本によると、実はこの間に、詰め込んだ情報が潜在意識によって無意識に整理されていくそうです。(茂木さんではないですが、脳の偉大さに改めて感銘)
このプロセスを経ることで、一見バラバラに見えたそれぞれの要素が繋がり、ストーリーがシンプルになり、エッセンスが絞られていきます。
一方で、このようなプロセスを続けても、なかなかハラに落ちない時があります。
端から見ていると、フラフラ何もせずに暇そうに歩いていて、いかにも何もしていないように見えるのかもしれません。
しかし、実はこのような時は、何も産み出せないので、とても苦しいのですよね。まさに「産みの苦しみ」というものでしょうか?
しかし、徐々に整理されてきて、ハラにストンと落ちる段階がやがてやってきます。ハラに落ちた時点、全体100のうち30-40の段階(場合によっては50を過ぎた段階)で、紙にあらすじを書き殴ります。ここで大枠のストーリーが決定します。
100のうち40-70の段階で猛烈にアウトプットを始めて一気に書き上げます。
一通り猛烈なアウトプットが完了すると、またしばらく時間を置きます。そして100のうちの70-100で書き上げたものを見直します。
時間を置くのは、ふたたび一旦忘れるためです。
書いた直後は何かに囚われた状態になっているので、極めて主観的になっていることが多いのです。
実は何かに囚われて主観的になっているからこそ、夢中に書けるのですが、逆に言うと、客観的に自分のアウトプットを見ることができない状態になっています。
アウトプットを見るお客さんの立場に立って客観的な自分を取り戻すためには、この「忘れる」プロセスが必要です。一回忘れることで、全く新しい視点を得られることもあります。
そして、このように苦しんだ結果出てくるのは、仕事の場合は1-2枚のチャートだったり、本の場合はすっきりとしたストーリーや文章だったりします。
もしこのようにして作ったチャートや本が、こんなプロセスを経ているとは思われず、「へー、分りやすいなぁ」と思われたとしたら、逆にそれはストーリーがシンプルになりエッセンスが絞られているということなので、この作業は成功、ということになります。
このような形で最初の5日間、何も書かずに考え続けたのは、結果的に非常によかったと思います。