HPのクラウド戦略についてインタビューしました
HPのTSG(Technology Solution Group)(エンタープライズITの担当事業部)のクラウド戦略責任者であるRebecca Lawson氏と単独インタビューできる機会がありましたので、ここで概要をご紹介します。
クラウド戦略という観点から言うと、HPは他社と比較してあまり力を入れていないような印象があるかもしれませんが、実は、確固たるクラウド戦略があります(外部へのアピールが足りないのではないかという批判は妥当かもしれません)。
HPは、Adaptive InfrastctureというIT基盤のビジョンを長年にわたって推進してきていますが、その内容はクラウドにかなり近いところにあります。特に、イン ターナルクラウドとAdaptive Infrastctureはかなり近い領域にあります。マーケティング戦略的にクラウドという言葉を強調すると、昔から継続的にやってきたことなのに 単に時流に乗ったのではと誤解され、その一方でクラウドという言葉を使わないと顧客の評価の対象にされなくなるというジレンマがあったのですが、結局、クラウド (そしてインターナル・クラウド)という言葉をマーケティングタームとして活用するという結論に至ったようです。
HPにおけるクラウドの組織は、Lason女史が属するTSG、そして、PSG(Personal System Group)、IPG(Imaging and Printing Group)のそれぞれクラウドの責任者がおり、3者が協力の上、クラウド戦略を推進する形になっています。PSGではシンクライアントのホスティング(いわゆる、Desktop As Service)、IPGでは写真共有サイトのSnapFishなどの一般消費者向けサービス等々、クラウド事業を行っていますが、やはりTSGがクラウド戦略の中心と言ってよいでしょう。
HPが考える企業IT部門のあるべき姿とは社内外から調達したITサービスをポートフォリオにしたがって適材適所で組み合わせ、事業部門に対してビジネス上の価値を提供するというものです。クラウドはこのポートフォリオに新たなサービス調達先が加わったものと考えることができます。これを表現したのが下図。この図はなかなかわかりやすいですね。
以前も書きましたがHPが考えるクラウドビジネスの方向性として以下の3つがあります。
- クラウド事業者に製品・サービスを売る
- クラウドを利用するユーザー企業を支援する
- 自らがクラウド事業を行なう
HPはこの3つとも追求しています。かつてのHPであれば1と2のみを追求することになるのでしょうが、今はEDS(現HP Enterprise Services)の資産があるので3も追求せざるを得ません。3の領域では特定バーチカルに限定し「顧客との競合」を避けています(当然の戦略です)。このようなHP自身が推進するクラウド事業の中で特に興味深いのはカナダにおける食品製造業の商品バーコード情報の管理サービスの事例です。リコールが発生した時にはアクセスが急増するのでクラウド向けのアプリケーションだそうです。一般的に、何か不測の事態があるとアクセスが急増するリスク管理系のアプリケーションにおけるクラウドの活用というのは検討に値するテーマだと思います。
製品ポートフォリオ的にはHPはクラウド基盤において有利な立場にあると思います。Compaqの遺産であるIAサーバ、ブレード系製品群の品そろえ、クラウド管理ソフトウェアのOpsware、ミッドレンジのストレージ、そして、EDSによるアウトソーシングのノウハウとクラウドの実現に必要な要素はそろっています。特にOpswareの重要性は高くなっていると思います。Opswareは元々はMark Andreesenが1999年に創立したサービスプロバイダーであるLoudcloud社(社名に「クラウド」が入っている点に注目)の基盤ソフトウェアが元になっています(2007年にHPがOpsware社(その時点でLoudcloudから改名してました)を買収したことでHPの資産になっています)。最近、Andreesen氏はHPの取締役に任命されましたがこれも何かを表わしているのかもしれません。
※ 本記事はテックバイザージェイピー公式ブログ「栗ブログ」からの転載です