クラウドにおけるレイテンシ問題について
先日のグリッド協議会のワークショップで産総研の研究者の方がAmazon EC2の使用経験について話されていましたが、米国のサーバとのレイテンシ(通信遅延)が200ミリ秒近くあるので開発作業が結構stressfulであったと言われていました。
業務系プログラムやブログ投稿のようにサーバとブラウザー間のやり取りがそれほど多くないアプリケーションであれば、あまりレイテンシは気にならないのですが、グラフィカルな開発のようにサーバとのやり取りが頻繁に発生するアプリケーションではレイテンシがユーザーエクスペリエンスに与える影響は無視できないと思います。ワープロやスプレッドシートなどのオンライン・オフィスにおいても同様です。Ajaxを駆使したり、ローカルにアプレットをダウンロードしたりすることで多少は軽減されるかもしれませんが。
また、証券取引のアプリケーションなどでも、数ミリ秒の処理タイミングの差により得られる金銭的利益が大きく変わったりするので、レイテンシをできるだけ低く押さえることは重要です。
クラウドの特性としてサーバの物理的場所を気にしなくてよいという点が挙げられることがありますが、建前上はそうでも、実際にはサーバがどこにあるかによってレイテンシが大きく変わりますので現実には気にしなくて良いというわけにはいかないでしょう。
快適に使えていたサービスがある日突然データセンターが海外に移動したことで急に使いにくくなったのではやってられません。
レイテンシの問題を考える場合に重要なのは、通信に固有のレイテンシは物理法則によって制限されるという点です。情報の理論的速度の最大値は真空中での光の速度です。光は1秒間に地球を7周半しますので、地球の裏側まで往復ということになると、どんなにがんばっても100ミリ秒強のレイテンシは発生します。
そして、この通信に固有のレイテンシは物理法則で決まるものなので、今後どんなにテクノロジーが進化しても短縮できません。ネットワークを高速化しても帯域幅は大きくできますが、このレイテンシには直接関係ありません。自動車の最高速(=電子の移動速度)が決まっている限り、東名高速を片道10車線にしても東京から大阪まで30分で行けるようになるわけではないのと同じです。
要するに、海外にデータセンターがある場合と国内にデータセンターがある場合ではレイテンシには結構な差が生じ、どれほど高速な回線を使おうが、強力なサーバを使おうがこの差は埋められないということです。
いかなる情報システムにも言えることですが、性能を極限まで追求していくと、結局この情報の移動速度というのが律速段階になってしまいます。このあたりを理解していない人は結構いそうです。そう言えば、サンのCTOであるグレッグ・パパドポロス氏は、ある記者会見でこの点に触れて「今、神様と光の速さをもう少し速くしてくれないか交渉中だ」とジョークを飛ばしていましたが、まったくウケていませんでした。
いずれにせよ、クラウドを企業コンピューティングでちゃんと使っていくためにはこのレイテンシ(=データセンターの場所)への考慮が重要になってくることがあるでしょう。