借金を返さないことは犯罪ではない
と当たり前のことを書いてみましたが、これで「え?」と思った人は民事と刑事の区別がついてない人です。(と言いつつ私も法律の勉強始める前はあんまりよくわかってなかったんですけどね)
犯罪とは、公権力による刑罰(罰金とか懲役とか)が課される根拠となる行為で、要は国と人との間の問題です。一方、人から借りた金を返さないのは人と人との間の問題で民事のお話であり、刑罰とは直接的には関係ありません。単なる債務不履行(契約違反)です。もちろん、最初から返すつもりがないのにお金を借りたりしていれば詐欺という犯罪が成立しますが、それは詐欺を行ったことが犯罪に当たるのであって、借金を返さないことが犯罪なわけではありません。
では、お金を返してもらえない人はどうすればよいかというと民事裁判を起こして勝訴すれば、裁判所が借り主に対して金を返すよう命令してくれます。それでも返さなければ財産の差し押さえなどにより強制的に返させます。しかし、これはあくまでも民事の話なので、借金を返さないことで、警察に逮捕されたり、罰金を取られたり、牢屋に入れられたりということはありません。
なお、犯罪が成立するためには、法令において事前に明確な規定がされていなければなりません(罪刑法定主義)、どんな反社会的行動であってもそれを裁く法律がなければ刑罰が課されることはありません。その一方で、民事の場合は人と人の間の問題ですから、明文の規定がなくても慣習にしたがったり、大岡裁き的な判決が出されることもあります。
では、JASRACに料金を払わないでJASRAC管理曲を演奏するとどうかというお話ですが、これはJASRACに払うべき金を払っていないという債務不履行の問題だけではなく、刑事上の犯罪になり得ます。著作権法119条に著作権の侵害は10年以下の懲役、1000万円以下の罰金に処すと書いてあるからです。
以前、JASRACに利用料金を払わず、店でハーモニカを演奏していた73歳のスナックのマスターが警察に逮捕されてしまったという事件がありましたが、感情的にそれはないんじゃないのというのは別にすれば、法律の運用的には間違ってないことになります。
ところで、仮にこのマスターが「俺はJASRACと契約した覚えはない」と言っても通りません。著作権は著作物を創作すると自動的に生まれる権利であり、契約により生まれる権利ではないからです。プログラムの利用許諾で「当プログラムは著作権法で保護されています」みたいな文言が書いてあることがありますが、あれは確認規定であって、そういう契約の条文がなければ著作権が発生しないわけではありません。
著作権に限らず、特許法・商標法・意匠法という知的財産権関連の法律はすべて侵害行為に刑事罰を規定しています。本来的には権利者と侵害者の間の問題なので民事的に解決するのが筋だと思うのですが、理由付けとしては、知的財産は侵害が行われやすいので、抑止力として刑事罰を設けているということのようです。
海賊版DVDを工場で大量生産して販売するなどの悪質なケースに刑事罰が適用されるのはしょうがないとしても、著作権侵害で一個人に対して警察権力を使って刑事罰というのは(法律的には間違ってなくても)市民感情としては納得できないところがあります。